わたしは、ずっと悪い子でした。
 お母さんを酷い目に遭わせ、お父さんにたくさん苦労をかけ、大勢の人達に迷惑をかけてきた、悪い子でした。

 わたしの眼は、燃え盛る炎のように真っ赤です。
 お母さん譲りの、延焼の魔眼と言うとても貴重で恐ろしい魔眼です。
 これは魔法を使わずとも、いつでもどこでもありとあらゆるものを焼き尽くす事の出来るこわい瞳です。
 それに加えてわたしの魔力は火の魔力でした。火を発生させて何かを燃やす事しか出来ない、こわい魔力です。
 わたしは、生まれたばかりの時に、この魔眼と魔力によってお母さんに酷い事をしてしまったのです──。


『おまえって母親を殺しかけたんだろ! 目も変だし、手だってほら! やっぱり化け物だ!!』
『化け物が人間のフリするなよ! 死んでしまえ!』
『おれたちのことも殺すんだろ!』
『やだ……何あの手……』
『ほら、あの子が例の……』
『魔女だわ、本物の炎の魔女だ!』

 友達を作ろう、と言うお父さんと一緒に行った初めてのパーティーで、わたしはたくさん酷い事を言われた。
 分かっていた事だった。わたしに優しくしてくれるのは、お父さんと屋敷の皆だけ。それも、わたしがお父さんの娘だから……シャンパージュ家の一人娘だから。
 お父さんや屋敷の皆がとても優しくて、お父さんの『メイシアは優しい子だからきっと友達も出来るよ』と言う言葉が嬉しくて、それを真に受けたわたしは勘違いしていた。
 …………化け物でニセモノのわたしに、普通の人のように友達を作り過ごす事なんて出来る訳がなかったんだ。
 昔からずっとそう思っていた。そう、分かっていた筈なのに……やっぱり、憧れずにはいられなかった。
 心のどこかで期待していたのだろう。あのお父さんがきっと出来ると言ってくれたから、わたしにもまだ可能性があるんだって、そう、期待していた。
 結果はあの通り、たくさん酷い事を言われて、予想通り期待を裏切られたわたしは泣いてしまった。
 今まで優しい人達に囲まれていたから、その反動もあって、心が苦しくなったのだろう。
 泣いて駄々をこねてお父さんを困らせてしまった。わたしの様子を見たお父さんがすごくすごく辛そうな顔をしていて、わたしのせいだって心臓が苦しくなった。

 その日以来お父さんは一度も、わたしに『友達を作ろう』とか『友達が欲しいかい?』と言わなくなった。その代わりに、わたしにたくさんお仕事の資料や書類を見せてくれるようになった。前よりももっと商売の事をたくさん教えてくれるようになった。
 生きていく上できっと役に立つからと、お父さんはたくさんの事を教えてくれた。お勉強は嫌いじゃないし、化け物のわたしに出来る事はこれぐらいだったから、ずっと自分の部屋でお勉強ばかりしていた。
 屋敷の中は安全だから。屋敷から出なければ、もうあんな風に辛い思いをしなくていいから。
 この屋敷の中には、わたしに酷い事を言う人はいないから。酷い事をする人もいないから。一番、安全な場所だから……。
 そうやって過ごしていると、十一歳になる頃には、外に出たいとも思わなくなった。
 だって外に出ても辛いだけで……何もいい事なんてないから。
 辛くて苦しくて悲しい気持ちになるのに、どうしてわざわざ外の世界に出る必要があるの。そう、思っていた。
 でも、一度だけ外に出ようと思った事があった。いつもわたしの事を気にかけてくれるお父さんに、とっておきの誕生日プレゼントを渡したくて……それで、皆に内緒でこっそり外に出た事があった。
 ちゃんと義手を隠すための手袋も着けて、あんまり顔を見られないために深くローブも羽織った。きっと大丈夫、わたしを知る人に出会うわけがない。