暫くして、私達の待つ部屋にやりきった面持ちのハイラさんがやってきた。結果は上々とのこと。
 伯爵は早くも今日より発注した物の手配を始めてくれるそうだ。物資が集まり次第、工事を開始する事となった。
 本当に有難い事に、工事中の現場監督や孤児院の経営者はシャンパー商会から信頼の置ける者を派遣してくれるらしい。
 さらにさらに……見込みのある貧民街の方々はシャンパー商会傘下の様々な店で雇ってもらえる事になったらしい。もう本当に至れり尽くせりだ。
 本当にここまでしてもらってもいいのか、と直球で伯爵に聞いたところ、伯爵はとても人の良さそうな微笑みで『寧ろ、まだ足りないぐらいですよ』と訳の分からない事を言っていた。
 なんでも引き受ける伯爵も凄いが、何から何まで交渉して契約にこぎつけたハイラさんも凄い。
 ハイラさんって本当に何者なんだろう……ただの侍女では無いよね、あまりにもパーフェクトな侍女だわ。
 そんなパーフェクト侍女ハイラさんのおかげで商談が上手くいった私は、本日のもう一つの目的を果たす為、メイシアに見送られながら伯爵邸を後にした。

 本日のもう一つの目的と言うのは、ずばりディオさん達への謝礼を渡す事だ。その為にちゃんと彼等に渡すお金も用意してあるし、色々とケイリオルさんに許可をとったりもした。
 ようやく準備が整ったので、あの夜の取引をきちんと果たそうと思い、こうして貧民街へと向かっているのだ。
 ディオさんから聞いたディオさんの家までの道のりを紙に記した物をハイラさんに渡しているので、そのうち着くことだろう。
 その間、私はまた、マクベスタとシュヴァルツと共に話しながら馬車に揺られる事となった。

「……本当なら由々しき事態じゃないか……」

 伯爵邸で今日の朝刊を貰ったらしいマクベスタが、それを眺めながら眉をしかめた。
 その理由が知りたくて、私は「何が由々しき事態なの?」と尋ねた。
 するとマクベスタが新聞から顔を上げ、こちらにその一面を見せて説明してくれた。

「何でも、魔王が半年程前より魔界から姿を消しているらしい」

 その一面には大きく『魔王消失か?! 魔界より姿を消したその理由とは!』と書かれており、魔王に対する様々な一説や憶測が書き連ねられていた。
 魔王って、よく聞くあの魔王? 魔界の支配者って言うあの?
 支配者が消えるってどう言う事なのよ…。