「ねーねーおねぇちゃん、メイシアにゴミの山を一気にばーんって燃やしてもらうのはどうかなっ」

 そう話すシュヴァルツは、軽やかな足取りで私の隣まで移動し、すごいでしょ褒めて褒めてとばかりに期待に満ちた目でこちらを見てくる。
 そこで私は思案する……成程、メイシアに全部焼却してもらうって事ね。
 確かにそうすれば掃除も楽ちんだし手間もかからない。話に聞く限り例の掃き溜めはかなり広範囲に広がるそうなのだが……恐らく、メイシアの魔力と魔眼があれば容易に全て灰に変える事が可能だろう。
 しかし、あの魔力と魔眼を恐れるメイシアに無理やり魔法を使わせるような真似、私はしたくない。

「……確かにいい案だと思うけれど、メイシアに凄く負担がかかってしまうし……私はメイシアが嫌がるような事はしたくないしさせたくもないから。ごめんねシュヴァルツ、せっかく考えてくれたのに」

 そうやって謝りながら、私はシュヴァルツのふわふわな頭を撫でた。
 するとシュヴァルツは「おねぇちゃんが頭撫でてくれたからなんでもいいや」と宣い、特に気にしていない様子ではにかんだ。
 本当に貴方は変わっているわね、と言おうとしたその時。メイシアが、私の手を強く握って言い放った。

「わたしは大丈夫ですっ、出来ます! アミレス様と一緒なら、何も怖くありません!」

 宝石のように輝く少し変わった赤い両眼に私を映して、メイシアは自らを奮い立たせた。
 私の手を握るその義手《みぎて》が少し震えている。やっぱり怖いんだ、魔力を使う事は。だが、それでもメイシアは前に進もうと頑張っている……ならば、私はその背を押してあげたい。
 私の存在がメイシアが前に進む足がかりになるのなら、喜んで引き受けよう。だって私はメイシアの友達だから。友達の為なら、私はきっと何だって出来る。
 それに、私が傍にいればもしもの時すぐに消火も出来る。ならやはり、メイシアと一緒にいた方がいいよね。

「……メイシア。貴女に無理をさせる事になりそうだけど、本当に大丈夫?」
「っ、はい!」
「その時は私も傍にいるから、もしもの時はすぐに私に頼ってね」
「アミレス様がすぐお傍に……! がっ、頑張ります!」

 メイシアがここまでやる気になってくれたのなら、私はもう大船に乗った気持ちでいさせてもらおう。
 メイシアの協力も得られたと言う事で、それに喜んだ私は頻繁にお菓子を口の中に放り込む。流石はシャンパージュ伯爵家の茶請けね、凄く美味しいわ。
 もぐもぐむしゃむしゃと無心でお菓子を食べる私に、何故かマクベスタがずっと視線を送ってきていた。しばらく視線を送られ続けると、流石に気になってしまう。