「…………ですが、それ程の魔法を、一体誰が…?」

 伯爵がぽかんとしながらボソリと呟いた。その疑問に私は簡潔に答えた。

「私がやります」
「──え?」
「水を沸かす魔法陣の刻印は、私が行います」

 伯爵とメイシアは、また目を丸くした。
 ……あれ、おかしいな。野蛮王女が皇家の血筋でありながら氷の魔力を持たないって話はかなり有名だと思うんだけど……噂としてもかなり広まってる筈だし。
 うーむ、この反応は予想外だな。

「……ご存知かもしれませんが、私は……帝国と皇家の恥晒し、氷の魔力を持たない出来損ないの野蛮王女でして。そんな私が扱える魔法は水ですので、水の魔法陣を刻印するぐらい容易いんですよ」

 そう、私は平然と笑った。実を言うと氷も作れない事も無いのだが……バレたらややこしい事になるから、それは隠し通さねばならない。
 この話を聞いた伯爵達は、肝を潰した顔をしていた。なので私は「気にしないでください、もうどうとも思ってませんので」と伯爵とメイシアに言い聞かせた。
 そしてそれから少し経ち、ある程度の話は済んだ事だし、私は具体的な取引の方に話を移す事にした。
 シャンパー商会の事業は多岐にわたる。だからこそ、欲しいものリストに書かれた物の大半がシャンパー商会で購入可能だ。
 それらの細かい発注や本格的な取引はハイラさんがやってくれた。……何せ私は先日ようやく人生初買い物をしたばかりの買い物初心者。大商会との大規模取引なぞ上手く出来る筈がない。
 なので私は自主的に身を引いた。『ここから先は子供の出る幕ではありませんね』とそれっぽい事を言って、やりくり上手のハイラさんに全て丸投げ……ごほん、お任せしたのだ。
 大人同士の大事な商談を邪魔する訳にもいかないので、それが終わるまでメイシアと話しながら待つ事になった。
 大人達の邪魔にならないよう、私達は一度別室へと移動した。
 案内してくれた執事さんに言われ長椅子に腰掛ける。すると、私の隣にメイシアが微笑みながらピッタリとくっついて座った。
 そして向かいの椅子にマクベスタとシュヴァルツが座る。私達は向かい合ってお茶をする事になったのだ。