「……これは、オセロマイトの紅茶だ。南部で生産されている女性に人気のフラワーティーと言う物だな」

 確かに、紅茶からほんのりと花のような香りが漂う。
 オセロマイト産の紅茶を飲むマクベスタの横顔が何処か嬉しそうで、今度誕生日プレゼントを渡す時が少し楽しみになった。
 私が買った茶葉は多分別のものだから、被る事も無いだろうし。皇宮を抜け出してまでして買ったんだもの、少しでもいいから喜んでもらえるといいな。
 シルフにも紅茶、飲んでみる? と確認すると、シルフは嬉しそうに「いいの?」と聞き返してきた。私はそれに良いよ、と答えてティーカップを膝の上にいる猫シルフに近づける。
 すると、なんと予想外にも猫シルフが器用にそのティーカップを前足で持ち、まるで人間のようにティーカップを傾けて紅茶を飲んだのだ。
 その光景に私達は唖然とする。あのハイラさんでさえも戸惑いを露わにしている。
 開いた口が塞がらない私達を置いて、猫シルフはソーサーにカップをカチャリと丁寧に置き「ふぅ」と気持ちの良さそうな声を漏らした。

「人間の作る紅茶はやっぱり美味しいねぇ」

 まるで普段から紅茶を嗜んでいるかのようなシルフの発言に、私達は更に困惑する。……飲むかって聞いといてあれだけど、猫って紅茶飲んでも大丈夫なのかしら。精霊だから問題無いとか?

「ふっ……くくっ、あっははははっ! いやっ……せ、精霊の……おもしろ……っ!!」

 そして何故か腹を抱えて爆笑するシュヴァルツ。相当ツボに入っているのか、何度も長椅子をバンバンと叩いている。
 シュヴァルツにもシルフが精霊である事は話したけど……やっぱり猫の精霊が紅茶を飲んでいるのは世間一般的に見ても愉快な現象なのかしら。
 私はゆっくりとマクベスタの方を見た。どうなってるのこれ? と視線を送る。するとマクベスタから、

(オレに聞かれても)

 と言いたげな視線が返ってきた。そりゃそうだ。
 そんなこんなで困っていると、ガチャリと部屋の扉が開かれて伯爵がようやく姿を見せた。その後ろから、ひょっこりとメイシアも現れて。

「お待たせしてしまい申し訳ございません。王女殿下」
「本日もご機嫌麗しゅうございます、アミレス様」

 綺麗なお辞儀と共に伯爵とメイシアは各々挨拶をして来た。
 しかしその直後、二人揃ってマクベスタを見て目を丸くした。伯爵は何かに気づいたようにもう一度会釈し、メイシアは何かが気に入らないようで真顔になってしまった。
 ……それでもすっごく可愛いわね、本当に。メイシアってばどんな顔でも可愛いとか最強じゃないの。

「本日のご用件は我が商会と取引がしたい……と言う事で宜しかったですよね?」

 向かいの長椅子に腰を下ろした伯爵は、私の目を見てそう確認して来た。それに私は頷く。

「はい。個人的に行おうとしている事業に必要な物を全てシャンパー商会で買わせて貰いたくて」

 そうすればシャンパージュ家の力にもなれるし慈善事業も出来るしで一石二鳥だからね。