とても月が綺麗な夜。
 しかし眩き月明かりすらも届かぬ地下監獄にて鎖に繋がれる男達を、ボクは静かに見つめていた。
 ……こんな男達の手でボクのアミィが傷を負ったなんて。あぁ、なんて許し難い事だろうか。
 だからボクはこれらを絶対に許さない。無茶をしたアミィへの説教はもう済んだ事だし、後はアミィへと刃を向けた愚か者達に罰を下すだけだ。
 社会的、法的な裁きはこの国の人間が与えるだろう。だからこそ精霊が与える罰は……死なない程度に、笑っちゃうくらい残酷じゃあないとね。

「……準備はいいか、ルーディ」

 ボクは精霊界より連れて来たとある精霊に声をかける。
 彼はルーディと言う名の精霊であり、亜種属性の奪の魔力を司る精霊だ。奪の魔力は読んで字のごとく、ありとあらゆる現象、物事、はたまた概念に及びその全てを奪う対象として、奪い尽くせる魔力だ。
 やはり略奪や簒奪や強奪等の『奪う時』にこそその真骨頂が発揮される。この魔力が扱える魔法はただ一つ、奪うだけなのだが、その奪う事には条件らしい条件が無く際限なくあらゆるものを奪えてしまうのだ。
 更に奪ったものを自在に操れてしまうのだから、本当にタチの悪い魔力だと思う。
 流石にこの魔力は生まれてすぐ、早々に絶滅させるべきだと上座会議で議決され、この魔力を管理する精霊のルーディ以外の奪の魔力所持者が一人残らず処理された事があった。
 それだけ危険な魔力なのだ。じゃあ何故そんな魔力を持つ男がここにいるかって? そんなの決まってるじゃないか。
 ルーディはまるで歌劇かのように大袈裟に返事をした。

「勿論だとも、マイ・ロード! して、貴方様の望みは? 此度は……ワタクシめは何を奪えばよろしくて?」
「あの男達はボクの宝物に手を出した、それ相応の罰を与えなければならない。だからまず手始めに──魔力を奪ってしまえ」
「おや、マイ・ロードは本気でお怒りのご様子だ。ふふ、お安い御用だとも。マイ・ロードが望むのであれば、ワタクシは何だって奪い尽くしてご覧にいれましょう!」

 舞台で一点に光を浴びながら幕が下りるのを待つ役者のように、深く腰を曲げたルーディは、ボクの命に従い迷う事なくその権能を発動させた。