『……足を刺されたりしてたから、アミィはかなりの重症ではあったよ。ただ、その場にいた司祭の男が治癒魔法で全部治したみたいだけど』

 その時、私の体はピタリと動きを失いました。簡単に言えば、絶句したのです。
 ……まさか、姫様の御体に、そのような傷が。例え今治っていようが、ただの一度でもそのような傷が姫様にあったと言う事実が、私の心を怒りと憎しみで燃やすのです。
 姫様に刃を突き立てた愚か者は何処に、私がこの手で引導を…………そう思った時、それを見透かしたかのようにシルフ様は、

『その怒りはもっともだし、ボクもそう感じなかった訳では無い。だが、アミィがこれでいいと決めたのだから……ボク達は口出ししてはいけない』

 と悔しそうに仰りました。……なので私は、渋々、嫌々、何とか溜飲を下げました。
 しかし……どんな時でも事態に対応出来る辺りは、流石です姫様と言わざるを得ないのですが……その誰とでも仲良くなろうとなされる姿勢は、美しくもありますが時に姫様に牙を剥いてしまう事でしょう。
 あまり推奨出来ませんし、こと姫様に限っては正直褒められた行動では無いと思います。
 ですが……やはり、それでこそ姫様だと私は思ってしまうのです。誰よりも優しく、誰よりも臆病であり、誰よりも愛に焦がれる可愛い私の姫様。
 私は姫様の全てを肯定します。例えそれが間違った事であろうと、私はその全てを肯定し、姫様を支えます。
 ……勿論、姫様を心より思うからこそ怒りを覚える事もありますし、姫様の最初にして一番の臣下として諌言を申し上げる事とてあります。
 しかしそれは愛故なのです。えぇ、姫様もきっと認めて受け入れて下さる事でしょう。

『詳しくは後でアミィに聞いてくれ。勘が良すぎる君の事だからどうせ隠してても気づくだろうし、それで頭ごなしに否定され怒られてしまってはアミィが可哀想だから、こうして前もってある程度話しておいたけど……分かってくれたかい?』

 成程。この一連の説明は姫様を思いやるシルフ様の独断と。……確かに、何も知らない状態であれば、目覚めたばかりの姫様を問い詰めていたかもしれません。
 こうして事前に説明いただけた事で、速やかに説教の方をさせていただけそうですし。
 シルフ様には感謝しかありませんね。

『はい。シルフ様が私に何をお伝えになろうとしていらっしゃるのかは、凡そ検討がついております』

 怒ってもいいが、あまり姫様を責めないないでやって欲しい……そう、シルフ様は仰りたいのでしょう。

『私は姫様の忠実なる一番の侍女……その言動を諌める事はあろうとも、否定する事はありません』

 胸元に手を当て、小さくお辞儀をする。
 姫様にハイラと言う名を頂いたあの日から、この気持ちは変わらない。
 私の言葉に満足されたのか、シルフ様は猫のお顔でニコリと微笑まれた……。