だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

 頭がふわふわとしている。
 自分が起きているのか、寝ているのかも分からない。
 ある程度酒を飲んでからの記憶がないが……まさか私は泥酔しているのか?
 なんということだ。いくら王女殿下直々に『皆と飲んできていいよ』とのお言葉をいただいたとは言え、業務時間内である事に変わりはなかった。にもかかわらず、酒場の雰囲気にあてられ泥酔するまで酒を呷り、職務を放棄するだなんて。
 王女殿下の騎士失格だ……ッ!!

 それにしても……妙に体が柔らかいものに包まれているし、妙に嗅ぎ慣れた匂いも漂う。これはもしや私の寝台(ベッド)だろうか。意識も定かではない状態で、私はどうやって自室まで戻って来たのか。
 だがそのような事を考えられる程、意識は覚醒しておらず。
 瞼は重く、今にも閉じてしまいそうなのだが──……何かに突き動かされるように、私はのそりと起き上がり無心で体を動かす。

「だんふく……しわになる…………」

 無意識のうちに色んな言葉を羅列し、ゆっくりではあるが着実に手順を踏んでいく。
 常日頃から繰り返し行っている動作だからか、特に躓く事はなかった。
 剣を外し、団服を脱ぎ、シャツを脱ぐ。寝具に傷がつかぬようにとベルトを外し、皺にならぬよう髪を結っていたリボンも解く。
 これら全てが体に染み付いていたこともあり、半分寝ていた状況でも私は脱衣に成功した。

 半裸で寝台(ベッド)に倒れ込み、枕に顔を埋める。既にほぼ眠っていた状態だったからだろうか。
 私の意識は瞬く間に夢の中へと落ちていく。

「……──デ。……い、イリオーデ。おーい、朝だよー」

 これは夢か。久々に、あのささやかな幸福の日々を思い出したが故に見た夢。
 ああ、懐かしいな。はじめて王女殿下に名前を呼んでいただけた日は涙を流して喜んだな。
 花びら程の小さな手のひらが私の体に触れる度に、愛おしさが込み上げたものだ。

「──ん、おうじょ……でんか」
「ひゃっ!?」

 その手を引っ張り、幼い体を抱き寄せる。
 そうだ。確かあの頃はこんな風に──、

「こうして、あなたさまをだきしめて……よく、いっしょにひるねを……しましたね」
「えっ、あ、イリオーデ? ちょ、ちょっと……!」

 私の腕を枕替わりに、幼い王女殿下はよく昼寝をしていらっしゃった。小さなお口で呼吸を繰り返し、穏やかに眠る貴女様の傍で……私も、よく共に昼寝に興じていたのです。
 そういえば、頭を優しく撫でてさしあげたら、王女殿下は健やかに眠りについていたな。

「なんで頭撫で……っ!? 本当にどうしちゃったのイリオーデ! 寝惚けてるの!?」
「ぐっすりと、おやすみください。おうじょ……でんか…………」
「〜〜っ!? 寝ないでイリオーデ! 起きて! せめて私を解放して!!」

 たとえ夢だとしても──また、貴女様と昼寝を共に出来る日が来ようとは。そんな喜びから私の頬はどこまでも緩んでしまう。
 だが何事もそう上手くはいかないもの。私にとって都合のいい夢はここで終幕し、暗転した。

 ようやく目を覚ましたかと思えば、頭が非常に痛く、何故か体のあちこちからも痛みを感じる。
 ……ああ、これはもしかしなくても二日酔いか。昨晩は本当に飲み過ぎたようだ。まさか二日酔いが全身に響くとは。

「……む、身に覚えのない痣がいくつもある」

 見える範囲だけでも脇腹に一つ、腕には強く掴まれたような跡が一つ。いつの間にこんな所に痣が……。

「──ほんっとに信じられない。寝坊した挙句あんな無礼な真似をしたくせに覚えてないとか……主君が許してなかったら、今頃君の事を八割殺してたよ」
「ルティ、何故私の部屋にいる? まず、私はどうして起き抜けに罵倒されなければならないんだ」
「自分の胸に手ぇ当てて聞けばいいと思うよ、駄犬君」
「私は駄犬ではない。イリオーデだ」

 そう言い返した途端、ルティは苦虫を噛み潰したような表情で乱暴に部屋を出た。
 一体なんだったんだ、あいつは。


 ♢♢♢♢


「──寝坊してしまい申し訳ございません、王女殿下! どのような罰でも甘んじて受けさせていただきたく!」

 あの後、時刻を見て私は慌てて着替えを済まし、王女殿下の元に向かい、まだ痛む頭を下げ謝罪した。
 そうか……ルティが妙に不機嫌だったのはこれが原因か……!

「だ……大丈夫よ。誰だって寝坊の一つや二つ、よくある事だし。うん。それで……その、もう寝惚けたりしてない?」
「寝惚け……? 意識は完全に覚醒しております」
「そ、そうなの。なら、いいんだけど」

 王女殿下の様子がおかしい。美しい瞳を逸らす事といい、言動がぎこちない事といい……もしや昨夜、酔った私が何か無礼を働いていたのか!?
 記憶に無いからなんとも言えな──……っ、まて。そういえば先程、王女殿下は『寝惚けたりしてない?』と尋ねてきた。つまり、寝惚けた私が何かしでかしてしまったということなのでは?
 だとすれば、思い当たる節はただ一つ。

 あれは、まさか、夢ではなかったのか────?!

「〜〜〜〜ッ誠に! 申し訳ございませんでした王女殿下ぁ!!!!」
「急に何!?」

 今にも自決したい後悔と羞恥心を必死に抑え、地面に打ち付けるように土下座する。
 嗚呼──……もう二度と、酒など飲むものか!!