『あのっ、旦那様! 奥様のお世話の方は如何致しましょうか……』
『っ…………三人残れば問題ないか?』
『はい! 問題ありません!』

 寝たきりのネラの世話をする侍女が三人残り、その他全ての侍従はいくつかの組み分けを受け、手分けして時刻制でメイシアの捜索にあたる事となった。
 場所や時間帯によっては女性が行くには危険な場合もある。そう言った所は男組が行く事になった。逆に男が行くのが少々気まずいような場所には女性組が行く事になった。
 その時刻の割り当てでは無い侍従達は、万が一メイシアが帰って来た時に備えて屋敷で待機するようにした。
 そうやって、私達の約三日間に及ぶ捜索が始まった。
 メイシアは大変愛らしく目立つので、目撃情報のようなものは多く出てきたのだが、肝心の居場所は全く掴めなかった。
 私も捜索にはずっと身を投じていたのだが、仕事がどうしても滞ると言う事で、メイシアの帰ってくるこの家を守る為に、捜索を侍従達に託して泣く泣く仕事に戻った。
 ……どんな形であろうと、メイシアが無事に帰って来てくれたらそれだけでいいんだ。毎晩、ネラの元で私はそう祈っていた。
 メイシアの事が心配で、毎日眠らずにずっとメイシアを待っていた。
 そして、メイシアが行方不明になってから三日後の真夜中。涙を浮かべたオルロットが部屋に駆け込んで来た。
 それは待ち望んだ吉報。それを聞いた私は廊下を駆け抜けて、玄関まで急いだ。
 大勢の侍従達が涙を流し立ち尽くす中、私はメイシアを勢いよく抱き締めた。ずっと、三日間我慢し続けていた涙を溢れさせながら、私は何度も『無事で良かった』と繰り返した。
 そんな私達を見守っていた少女に気づいた私は、慌てて少女に礼を告げた。少女は洗練された所作でお辞儀をした。
 ……どこからどう見ても、あの立ち居振る舞いは貴族のものだ。しかし、私の記憶には少女の存在は無かった。
 帝国貴族の大半の顔と名前は把握していると自負する私だが、それでもあの少女については心当たりが無かった。
 記憶に無いのに、どうも引っ掛かる。確かにどこかで見た覚えがあるのに、それは記憶のどれにも該当しなかった。
 だから私は尋ねた。少女だけでなく、少女と共にいる上質な服を着た青年と、あどけない少年に、礼がしたいから名を教えて欲しいと。
 青年はリード、少年はシュヴァルツと名乗った。最後に少女が名乗ろうと言う時、私は自身の目を疑った。
 それと同時に、私は先程の妙な既視感の答えを得たのだ。
 先程まで確かに桃色だった少女の髪が、透き通るような銀髪へと変わっていった。……それには私もメイシアも、誰もが目を見張る。
 そして、少女は名乗った──。

 ──アミレス・ヘル・フォーロイト。今は亡き皇后様が最後に残された、現帝国唯一の王女殿下。

 ……王女殿下はメイシアと共に、年相応の少女のように笑っていた。
 身分だとか、立場だとか、噂だとか……そう言ったものを気にせず、王女殿下は……メイシアに接して下さった。
 それにはきっとメイシアも救われた事だろう。そして、私も救われたようだった。
 ずっと願っていた娘の幸せを、少しずつではあるが、ようやく叶えられそうで……そのきっかけを下さった王女殿下に、私は心より感謝していた。
 ネラの痩せ細った真っ白な手を握り、私は懇願するように呟いた。

「なぁ、ネラ。君にも是非見て欲しいよ、メイシアの笑顔を……君に似てとても可愛らしいんだ。だから、ネラ。早く……目を覚ましてくれ……」

 そして、共に王女殿下にお礼を言おう。忠誠を誓おう。私達の愛おしい一人娘を救ってくれたあの尊き姫君に、感謝の限り、恩返しをしよう──。