『だってそいつ、化け物なんだろ! 右手がニセモノで、母親を殺しかけたっていう!』
『化け物のくせに人間のばしょにくるなよ!』
『ニセモノの手でおれたちも殺そうとしたんだろ!』

 その言葉を聞いて、メイシアは更に震え泣きじゃくった。
 …………そうか、私はまた間違えたのだ。こんな所来るべきじゃあ無かったんだ。
 人の噂とは怖いものだ。あれ程箝口令を敷いたのにも関わらず、社交界ではメイシアの事や我が家の事が噂となっていたのか。

『……ごめんな、メイシア。こんな所に連れて来てしまって。もう帰ろうか』
『……ぅぐっ、ひぐ……』
『今日はメイシアの好きな夕食にしよう。夜はメイシアの好きな絵本を読もう。そして一緒に寝よう。大丈夫、私がずっと傍にいるから』
『…………っぅ、おと、ぅ……さ……っ』

 いつも全然感情を表に出してくれないメイシアが、こんなにも辛そうに泣いている姿を見て、私は腸が煮えくり返りそうになった。
 私はその場にいた子供達とその親達を睨み、告げる。

『──私の娘を傷つけた報いは、後で受けて貰う』

 メイシアを抱き上げ、背中を摩りながら私はパーティー会場に背を向ける。その際、先程のメイシアを泣かせた子供達の親らしき者達が血相変えて頭を下げて来た。……子供達にも無理やり頭を下げさせて。

『シャンパージュ伯爵! お許しください! まだ分別の無い子供の戯言ではありませんか!』
『そ、そうですよ! ほらッ、お前も早くご息女に謝るんだ!!』
『だってあいつは母親を殺しかけた化け物だって皆が言うっ』
『うるさい! シャンパージュ家のご息女に向かって何を言ってるんだこの恥晒しッ!』
『お許しください伯爵!! 伯爵からの支援が無ければ我が家は……!』
『この通りです! 子供にはこのような事が二度と無いよう厳しく言いつけておきますので!!』

 我がシャンパージュ家の爵位は伯爵だが、その実、貴族達に影響を及ぼす権威だけで言えば帝国の四大侯爵家程はある。
 昔からこの国の市場を切り盛りし、支配して来た我がシャンパージュ伯爵家は、好き勝手動きやすいからとあえてこの位であり続けた。
 そんなシャンパージュ家を恐れない貴族はまずいない。何故なら、このフォーロイト帝国で商売をする者は我が家の機嫌を窺わねばやっていけないと言う程まで、我がシャンパー商会の影響力が広く強大だからだ。
 だからこそ、親達は必死に頭を下げて来るのだ。私の機嫌を損ねたならば、家の没落が決まったようなものだから。
 ……我が家の権威とかにはさほど興味が無かったのだが、今となってはとても使い勝手のいいものだ。これのおかげで少しでもメイシアが過ごしやすい環境を作れるのだからな。