メイシアを連れ帰ってくれた少女の髪があの銀色に変わった時、私はそれを痛感した。
 皇族特有のものと言われている銀色の髪。氷のように冷たい寒色の瞳。そして……いつか拝謁した皇后様の面影を強く感じる顔立ち。
 その全てが、少女の身分や存在を物語っていた。
 確かに似つかわしくない長剣《ロングソード》を手に持ち、服の至る所が汚れてしまっている。だが、王女殿下から社交界で言われるような野蛮さは感じられなかった。
 寧ろ野蛮とは真逆の……高潔さや気品すら感じた。
 所作も特に文句のつけ所が無く、皇族でありながらも当然のように謝罪をする姿にはあわをくってしまいそうになった。
 メイシアの事を友達と仰ってくださった、心優しき御方。
 侮辱罪に該当してしまうだろうが、とてもあの皇帝陛下の娘とは思えない、表情豊かで思いやりに溢れた少女。
 私が話したのはほんの一時のみで、後はメイシアの話を聞いただけだったが、それでも十二分に理解する事が出来た。
 そして感心したのだ。……感心したとは即ち、それだけ低く見ていたと言う事だ。
 この時、私は己の愚かさを恥じた。何度も何度もうわ言のように繰り返してきた言葉を、知らず知らずの内に己が違えていたのだから。

「……ネラの所に行ってくる。彼女にも、メイシアが無事に帰ってきた事を伝えなければならない。領地の父と母にメイシアの無事を知らせる手紙を出しておいてくれ」
「畏まりました」

 オルロットにそう伝え、私は屋敷の角にある妻の部屋へと向かった。日当たりもよく、最も静かで落ち着いた場所。
 いつも妻が眠るその部屋に、私はゆっくりと足を踏み入れた。
 魔力灯《ランタン》の明かりだけが頼りとなる広い部屋。
 天蓋と透けた黒いカーテンに囲まれるベッドの上で、妻は静かに……小さく……寝息を立てている。

「ネラ……屋敷も随分と大騒ぎだったから君も気づいたかもしれないが、今日、無事にメイシアが帰って来たよ。怪我も無く、酷い事をされた訳でも無いようだ」

 細く病的に真っ白な手をそっと握り、眠る妻に語りかける。妻からの反応は無い。