「リードさん、もし良ければ泊まっていらっしゃる宿を教えていただけませんか?」
「……どうして?」
「もしかしたらお伺いする機会があるかもしれませんので」
「……はぁ、君は本当に色々とらしくないと言うか……」

 リードさんは眉尻を下げてため息をついた。……何だろう、さっきのディオさんと似てるなこの感じ。

「あの噴水広場から少し行った所にある水の宿って言う宿屋だよ。まぁ、教えはするけど誰も尋ねて来ない事を祈るかな……王女様のような人は特に」

 リードさんはどうやら私が尋ねて来ない事を祈っているらしい。絶対に来るなよ? とリードさんの目が言っている。
 でも教えてくれるんですね、ディオさんと言いリードさんと言いなんのかんの言って優しい人だなぁ。

「それじゃあ僕はそろそろ帰るよ。二人共…特にスミレちゃんはゆっくり休みなさいな」

 リードさんは昼間話をしてくれていた時のようにとても優しく微笑み、私達に背を向けて歩きだした。
 ……こんな夜分遅くに突然大勢の子供達の治癒を頼まれて引き受けただけでなく、わざわざ家まで送ってくれるだなんて……本当に優しい人だなぁ、リードさんは。
 その事に文句も言わず最後まで私達の事を気遣ってくれるとか、あの人どんな環境で生まれ育ったんだ一体。
 そんな風にリードさんの優しさにある種の恐れすらも抱きつつ、一時的になけなしの魔力で全反射を行い、城壁の門のすぐ近くにある衛兵の待機部屋へと繋がる小さい扉を例の如く鍵を作って開く。
 中に侵入すると居眠りをしている衛兵がいたので、それに気付かれぬよう忍び足で進み、もう一つの扉を開き王城の敷地内へと足を踏み入れる。
 そのまま城壁沿いに皇宮方面へと駆け抜け、抜け出した際と同じ窓から自分の部屋に入る。
 シュヴァルツを私室から扉続きの隣の小部屋へ「この部屋は好きに使っていいよ」と言って通し、私は急いで寝巻きに着替える。
 急激に襲って来た眠気に瞼を擦りながら帳簿と剣を机の上に置いて、ボロボロの服を隠し、そして入眠する。
 疲れたなぁ、とぼんやり考えながら夢の中に堕ちていく……。
 こうして、長いようでとても短い一日が、ようやく終わったのだ。