私の銀髪と寒色の瞳を見て、周りの人達の大半が顔を青くした。
 社交界でどれだけ野蛮王女だの砂上の楼閣だのと言われていても、私がフォーロイト家に生まれた皇族である事には変わりない。社交界の者達は私と一度も会った事が無いし、今後会う事も無いだろうからと好き勝手言ってるだけであって……。
 そう、例え相手が野蛮王女であろうとも……皇族とこのような所で会うなど、普通の帝国民なら恐怖に他ならない状況だ。
 そりゃあ皆さんとてあんな顔をしてしまうだろう。

「……ッ、申し訳ございませんでした! 王女殿下のお手を煩わせてしまい……!!」

 勢い良く膝を着いて、伯爵が頭を下げる。そんな伯爵に続いて、使用人の方々も怯えた様相で頭を垂れた。

「頭を上げてください。確かに私はこの国の王女ですけど……今回の一件は王女として行った事ではなく、私がただ、虐げられる幼い少年少女を救いたいと思い独断で行った事。ここまで出会った人達には素性を隠し『スミレ』と名乗っておりました。誰一人として、私がアミレス・ヘル・フォーロイトだと気づいた人はいなかったでしょう」

 頭を下げている伯爵や使用人の方々にそれを止めるよう促し、私は話す。

「ですので、私が王女だからと伯爵に頭を下げられても困ります。どうしても感謝又は謝罪をしたいのなら、メイシアの友達のスミレにしてやってください。アミレス・ヘル・フォーロイトとしては、褒められるような事も謝られるような事も何一つしておりませんので」

 そう微笑んで伝えると、伯爵が目を丸くしてパッと顔を上げた。
 何度か私とメイシアに視線を交互に送ってから、彼はおもむろに目頭を熱くさせた。

「そう、ですか……本当に、本当にありがとうございます……っ」

 感涙に咽ぶ伯爵に、執事さんが駆け寄ってハンカチーフを差し出した。伯爵の背中をゆっくりとさする執事さんの瞳にも涙が浮かんでいるようだった。
 その様子を眺めていると、メイシアがちょこちょこ……とゆっくり近づいてきて、

「……スミレ、ちゃん……」

 寂しそうな、嬉しそうな、そんな複雑な表情でメイシアは私のもう一つの名を呼んだ。
 私はメイシアの左手を優しく握って、それに答える。

「なぁに?」
「……これからも、わたしは、友達でいてもいいの……ですか?」
「当たり前じゃない。私達は友達よ? ああでも、距離を感じるから敬語はやめて欲しいかな」

 そう頼むと、メイシアはまた笑顔を咲かせた。……この笑顔を守る為にも、絶対にフリードルと関わらないでいいようにしないと。