「はは、あっはっはっはっはっ! 何それ何それ! なんなのあの子、すっごい面白い!」

 腹から込み上げる笑いに合わせて何度も手のひらで机を叩いたせいで、仕事の山が一つ、崩落してしまった。
 しかしそれよりもあの子だ。ボクはまた彼女の頑張りを注視する。
 たくさん汗を流して、顔を真っ赤にして、激しく肩を上下させて……とてもしんどそうなのに、諦めずに何度も同じ事を繰り返す彼女を見ていて、ボクはいつの間にか笑わなくなっていた。
 ……だって、あまりにもあの子が真剣な表情をしているから。笑うなんてあの子に失礼だ。
 だから、途中からはボクも応援していた。

 頑張れ。頑張れ。君なら出来る。

 彼女が額縁をぶつけるごとに扉は傷ついていくが、それでもまだ壊れるには至らない。
 どう言った理由であの子が額縁で扉を壊そうとしているのか、ボクには分からないが……あんなにも小さな女の子が懸命に頑張っているんだ。少しぐらい、その努力が報われたっていいじゃないか。
 どうせ神々は何もしない。ただ傍観しているだけなんだ。

 それなら、ボクが──……。

 ボクはその扉を粉砕した。なんてことは無い。ただ、ちょっと魔力の波動をぶつけただけだ。
 流石に目の前で突然扉が壊れたら、彼女も驚くだろうし怯えてしまうかも……なんて考えていたのだけれど、あの子は確かに驚きはしたが直ぐに気持ちを切り替えて部屋を出た。
 肝が据わってるというか、本当に変わった子だ。
 そうやって部屋を出た時、あの子は何やら紙とペンと本を手に持っていた。何に使うのかなとボクがいくらか予想を立てているうちに、その答え合わせが行われた。

 ……これは、地図かな? 随分と変わった描き方……というか文字が読めないな。何語なんだろう、これ。

 凄いな、こんなに小さい女の子がこんなにも正確な地図を作れるなんて。歩きながら次々に線を足していっているからか、一枚目の地図はあっという間に完成したようで、彼女は二枚目に取り掛かっていた。
 勿論記しているのは一枚目と繋がる続きの地図。それを書く彼女の横顔がとっても楽しそうで、時々何を呟いているのかが気になってしまった。
 非常識だというのは分かっているよ、そもそもこうして見ているのも非常識中の非常識だ。それに加えて聞こうとまでするなんて。
 だが聞きたいものは聞きたいんだ。ボクは気になるんだ、あの子が。そうやって、ごめんね…っ! と謝りつつ聞いた彼女の声は、その見た目通りの可愛い声だった。
 自分の家の筈なのに何故か初めて来た場所のように目を輝かせる少女を見守っていると、

「……それにしても誰もいないなぁ」

 キョロキョロと辺りを見渡しながら彼女は呟いた。
 確かに……隣の城とは違って、この建物にはおかしいぐらい人間がいない。もしかしたらこの子は不安になっているのかもしれない。
 そりゃあそうだ。だってこんな小さな女の子が一人で寂しくない筈が無い。

 こうなったらボクが出てあの子を安心させようじゃあないか! 音声遮断を解除して……っと、とその前に何も無い所から声をかけられたら驚くかな? 姿を……でも向こうにいくのはちょっと……制約の事もあるし……。
 とりあえず端末を光らせたらいいか。よし、行くぞぅ!