「会ったばかりの私に言われても、信用ならないと思うけど……私は、どんな貴女でも好き。本当はとても男らしかったりしても好き。本当はとても腹黒かったとしても好き。例えどんな姿や一面があっても、私はメイシアの全てを好きになるわ。だって、もうとっくにメイシアの事が大好きなんだもの」

 メイシアからすれば私は、昨日会ったばかりの見ず知らずの女だ。だけど私からすればメイシアは、ずっと前から知っていた心優しき少女なのだ。
 だから、信じて貰えないだろうけど、長く重ねてきた貴女への想いが私の中にはあるの。
 私の言葉に、メイシアは瞳を潤わせた。小さく口を開けたまま、ポロポロと涙を落とす。

「メイシア!? どうして泣いてるの、そんなに私からの好意が嫌だったの……?!」

 この会話の流れだとこれしかない。会ったばかりの私に謎の好意を向けられて怯えてしまったのか?!
 慌ててメイシアから手を離し、私は頭を下げる体勢に入る。……こんなにあっさりと頭を下げる皇族、そうそういないだろうなぁ。

「ちが……うの、うれしくて、とっても……うれしくて……なみだが、とまらないの…………っ」

 メイシアは涙に濡れる目元を左手で何度もごしごしと擦った。このままだとかなり赤く腫れてしまいそうで、私は何か無かったかとスカートの中をまさぐった。すると、ポケットの中にハンカチーフが入っていた。
 皇宮を出る時、こんなもの入れたっけな……煙幕玉と一緒にズボンから移し替えたのかもしれない。ズボンのポケットにいつも入れてたし、ハンカチーフ。
 ……それはそうと、今メイシアが嬉しくてって言ってくれた気がするんだけど。私からの好意が嫌だったんじゃなくて、嬉しくて泣いてるの、この子は……?

「……とりあえず、これ使って? 返さなくてもいいから」

 と微笑みながらメイシアの目元にハンカチーフを近づける。メイシアは「あり、がとう」と言ってハンカチーフを受け取ってくれた。
 そしてしばらく、メイシアが涙を拭いているのを眺めていると……メイシアがそのハンカチーフを握り締め、

「……あのね、スミレちゃん。わたしも……わたしもね、スミレちゃんの事が好き」

 花が咲いたような笑顔で、頬を瞳と同じくらい赤く艶やかに染め上げた。
 胸がはち切れんばかりに高鳴り、どうしようもなく彼女を抱き締めたいと思ってしまった──というか、抱き締めてしまった。

「すっ、スミレちゃん……っ」

 メイシアの小さくて細い体をしっかりと抱き締めると、彼女の困ったような声が耳元に聞こえた。
 なんだ、なんなんだこの気持ちは。可愛い……可愛い過ぎる……っ!
 これが誰かを愛おしいと思う気持ちなのか。メイシアが可愛いすぎて愛おしいわ……。
 猫シルフへと感じる愛情と似たこれは……もしや親愛なのかもしれない。初めての女友達だから特にそう感じているのかも。
 本当に、今日、作戦を決行して良かった。確かにドジも踏んじゃったけど、こうやって可愛い友達も出来て、皆を助ける事も出来たし、目的もちゃんと果たせて……十分過ぎるくらい大成功じゃない。

「…………二人の空間に割って入るようでかなり申し訳ないんだけど……二人共家まで送っていくから、もう帰ろう?」

 ぎゅーっと抱き締め合う私たちに、気まずそうな面持ちのリードさんがそう提案して来た。……家まで送られるのは困るんだけど、どうしたものか。