正直、そんな気はしてました。
 見ず知らずの子供達に慈善で治癒魔法を乱発するようなお人好しな司祭、そうそういないでしょう?

「……スミレちゃん、何でいるの?」
「……リードさんこそ」

 ディオさんに抱えられたまま例の司祭の所に向かったら、さっき脳裏をよぎった顔が目の前に現れた。
 あちらもあちらで私の存在に驚いているようだった。……まぁ、こんな所で再会するとは思ってもみなかったでしょうし。勿論私も驚いているとも。
 半日ぶりの再会がこんな所だなんて……偶然って凄いな。

「何だお前等知り合いなのか?」

 噴水の傍に私を下ろしながら、ディオさんが目を丸くしてそう聞いてきた。
 私は噴水のへりに座って、それに頷く。

「はい、昨日の昼間にリードさんの優しさにお世話になりまして……」

 噴水のへりに座った私の前で、リードさんが「怪我したんだろう、見せて」と言いながら膝を着く。
 私は少しだけスカートをたくし上げて、素足を出す。私の動作に少しだけぎょっとした後、スッ……と視線を逸らし、リードさんは気まずそうな顔を作った。

「怪我って足なのかい……?」

 ……貴族社会だと一般的に素足を晒すのははしたないと言われている。そりゃあ、貴族かつ聖職者だったというリードさんからすれば、相当な気まずさを感じる事だろう。
 気が利かないなぁ、私。

「あぁ……お見苦しいものをお見せして申し訳ございません」

 ぺこりと頭を下げる。
 すると、リードさんが慌てたようにそれを否定してきた。

「ちがっ、そういう事じゃないんだ! いや今のは僕の言い方が悪かった……君は貴族令嬢だろう、あまり見てしまっては、君が恥ずかしい思いをすると思ったんだ……」
「…………リードさんって本当にいい人ですよね、天然モノですかそれ」
「君は何を言ってるんだ……?」

 こんな何処の馬の骨とも知れぬ子供相手でも気にかけてくださるとは……割と本気でいい人過ぎないかしら、この人。
 私の謎発言も無視せず反応してくれてるし、優しいし面倒見がいい。そして美青年。こりゃあ、将来いいお嫁さん……じゃなかった、良い旦那さんになるだろうな。
 気を取り直したリードさんは、早速治癒の方に取り掛かってくれた。私が乱雑に巻いたスカートの切れ端を丁寧に取り、そして傷口を見て彼は目を見開いた。

「……これ、何があったんだ」

 傷口から目を離す事無く、リードさんの低い声がそう問うてくる。
 私はちゃんと先程の出来事を話した。……剣で足を刺されたのだと。
 するとリードさんは下唇を噛むようにして、無言で傷口に手を翳し治癒魔法を発動させた。
 暖かな眩い金色の光が傷口を照らす。傷口から出てきたかのように眩い金色の粒子が舞い、瞬く間に傷口が塞がれていく。
 初めて目の当たりにした本物の治癒魔法に、私はただただ見蕩れていた。光の魔力を持つ選ばれし者にしか扱えない魔法……とても心惹かれるその魔法に、私は今この時、確かに心奪われていたのだ。