「それより、お前……怪我とかは無いか? 後、用事とやらは済んだのか?」

 ディオさんがしゃがみ込んで、優しく聞いてきた。
 私はメイシアちゃんから帳簿を受け取って、ディオさんに見せつけるように胸元に掲げる。

「この通り、完璧です!」
「……そりゃ良かったな。で、怪我は?」

 ディオさんの言葉に反応して、私は無意識で、怪我をした方の足を隠すように後ろに動かした。……しかしディオさんは目敏くそれに気づいた。

「おいお前さては足を怪我したな? 何があった」
「……」
「言え」

 ディオさんの瞳が真っ直ぐ私を捉える。暫く無言を貫いたのだが、それでもディオさんはこちらをずっと見ていて…………私が先に折れてしまった。

「……敵が、六人ぐらいいたんです。四人目まではいい感じにいってたんですけど、五人目辺りでちょっと失敗して……足、剣で刺されました」

 ススっ……と刺された方の足を前に出す。止血の為にと巻き付けたスカートの切れ端は、今や血で真っ赤に滲んでいた。
 それを見たディオさんは暫く言葉を失っていた。そして……。

「ッ、何やってんだお前は!! どうして逃げたりしなかったんだ! どうしてそこまで無茶するんだ! どうしてそこまで危険を犯そうとするんだ!?」

 ディオさんの叫び声が静かな部屋に轟く。
 その言葉は何から何まで正しかった。だから私は、ただ口をぎゅっと結ぶ事しか出来なかった。

「……お前がどこの誰かも、その真意も俺は知らねぇ。そもそも赤の他人だ。だけどな、少なくとも今この時は俺達は手を組んだ協力者なんだ。どうしてもっと俺達を頼ろうとしなかったんだ、お前は。俺達をお前の目的の為に利用するのなら、どこまでも利用すれば良かっただろう、どうして必要最低限しか俺達を使わなかったんだ?」

 まるで子供に説教をする大人のように、ディオさんは私に語りかけた。……だからだろうか。気がついたら、勝手に口が動いていた。

「…………私の事情だから。下手に巻き込んで、危ない目に遭って欲しくなかった」
「人に飛び蹴り食らわせといて、変に遠慮がちなのは何なんだよ」
「……私の事よりも、子供達を逃がす方を優先したかった」
「ンなの俺の仲間だけで十分だ。俺一人抜けようが抜けまいが問題ねぇよ」

 こうやって話していると、何故だか、目尻がまた熱くなってきた。

「……私一人で何とか出来ると思ってた」
「そういうのは本当に一人で何とか出来てから言えよな」
「……こんな風に怪我するなんて、思ってなかった」
「……痛かったか?」

 私の呟きに、毎度、ディオさんはぶっきらぼうに返した。しかし最後だけ、ディオさんが優しくそう聞き返して来たのだ。
 ……それに私は、本当はずっと足を引きずって歩きたいぐらい痛かった事を吐露した。