精霊界にある自室にて仕事の山に囲まれながら、ボクはいつも通り魔力を固めて作った小型端末で人間界を観察していた。
 人間はボク達精霊と違い無限の魔力も半永久的な命も持ち合わせていない。それなのに、人間は日々を謳歌している。
 ボクはそんな人間達を見るのが密かな楽しみで、部下になんと言われようが力でそれを制圧し、仕事そっちのけで趣味の人間界観察をしていたのだ。
 今日もその一環でとある国のお祭りの様子を眺めていたのだが、一人の少女を見つけてしまった。
 お祭りをしている国の城の隣に住む女の子。ベッドの上で暴れている、可愛いけどかなり変わった女の子だ。
 ついその後の様子も気になってしまい、しばらく彼女をじーっと観察していた。あぁ、勿論あちらからボクの端末の姿は見えていない筈だ。だってこれはあくまでも魔力の塊だからね。

 おや、しばらく部屋をぐるぐる動き回っていたかと思えば今度は鏡を手に取ったね。自分の顔をぺしぺしと叩いているけれど、何をしているんだろう。
 今度は椅子を動かして……いやいや、君の体でそれを持ち上げるのはちょっと……それ結構重いと思うよ? あぁっ! 危ないってもうー! 

 彼女は小さい体で大きな絵画を持ち上げて、それを放り投げるように落としたのだ。見ていてとてもハラハラするというか、心配になってしまった。
 絵画を思い切り落としたから床に傷が出来てしまっているね、この子は全然気づいていないようだけれども。

 ……って、絵画を蹴ってる?! ボクには分からないけれど、それって多分凄い絵画なんじゃないかな?! だってそんな上等な額縁で飾られるぐらいだし! そんな事しちゃって大丈夫なの……?

 彼女は額縁を掴んで、ダンッダンッと絵画を蹴っていた。そんな事をしてしまえば勿論絵画には傷がつくし、色も少し剥げていた。
 一体何がしたいんだ、というかこの子本当にお姫様なのか? とボクの頭に次々疑問の花が芽生えてゆく。
 そして、どうやら彼女の目的は絵画ではなくその額縁だったようで、額縁を手に入れた彼女は達成感に満ちた顔でそれを持ち上げていた。
 今度は何を……と食い入るように端末越しの景色を見ていたボクは、驚愕のあまり素っ頓狂な声を漏らしてしまった。

「…………はぁ!?」

 なんと彼女はその額縁を思い切り振りかぶり、扉にぶつけだしたのだ。あまりにも予想外かつ奇想天外な行動に、ボクは呆れや驚きを通り超えて笑いさえ出てきてしまった。