「確か私は、この戦いはあくまでも目的の為の手段の一つに過ぎないから、出来る限り怪我人が出ないようにしよう……って言ってたじゃない?」
「ンなの絶対無理だろって言った覚えがあるな」

 ヘブンの言葉に、うんうんと首を縦に振る面々。

「あれ、やめる事にしたわ。こんなのお門違いの八つ当たりだと思うけれど、ここの人達には死なない程度に痛い目に遭って欲しいの」

 領民達のレオとローズへの態度と扱いが、どうにも私は気に入らなかった。だから一度、勝手にお灸を据えてやろうと思ったのだ。
 私の言葉にイリオーデ達は唖然としていた。私がこんな風にキッパリと『痛い目に遭って欲しい』と言った事が意外だったのだろうか。
 まぁ、普段はこんな事言わないものね。なので逆に、イリオーデとアルベルトはこれを相当な事だと判断したらしく。

「畏まりました」
「仰せの通りに」

 二人はその場で跪き、例え見た目が変わろうともいつもと全然変わらない様子を見せた。発言を撤回して非難されるかもと思っていたから、いつも通りの流れに少し肩透かしを食らった。
 そこで、ずっと静観していたスコーピオンの面々が口を開く。

「それなら言われた通り思い切りやるけどさ、そこんとこアンタ的にはどんくらいやって欲しいわけ?」
「そうだな。五体満足で家に帰してやるのか、それとも腕の一本や二本は斬り落とすのか。その辺りも明確に指定しろよ」

 ラスイズの質問を補足するように、マノが淡々と話す。
 確かに。死なない程度に痛い目に遭って欲しいって、かなり曖昧だものね。もう少し明確に指定しておいた方がいいのか。

「そうね……騎士と兵士は体が商売道具だし、四肢には手を出さないであげて。やるなら胴体を狙いましょう。領民達は…………同じように胴体狙いでお願い。あくまでも死なない程度に痛い目に遭って欲しいだけだから」

 我ながらなんと最低最悪な発言なのか。とても、一国の王女の発言とは思えない。

「胴体ね。的が大きくて狙いやすいわ! 死ななければ何してもいいのよね!」
「ホウミーは弓だもんね、そりゃあやりやすいでしょうけど……わたしは大剣だから胴体だけしか狙っちゃいけないなんて難しいわ」
「オバラ、やり過ぎちゃ駄目よー?」

 私の極悪発言なんてどうでもいいとばかりに、ホウミーとオバラの姉妹がキャッキャウフフなやり取りをしていた。
 闇組織スコーピオンの構成員だから、多分こういう感じの発言や人間には慣れてるんだろうな……引かれる覚悟だったから、こうして何も言われないというのは結構ありがたかったりもする。

「ま、とにかくだ。アミレスがそう言うのなら俺達は相手が死なない程度に暴れりゃいいだろ。よーし、俺も魔法ぶちかますぞー!」
「お前に魔法使われたら死者も余裕で出るに決まってんだろォが。自分(テメェ)の能力考えやがれクソガキ」

 銃の形をしたサベイランスちゃんを手にウキウキと肩を踊らせるカイルに、ヘブンが辛辣なツッコミを入れる。
 多分、城を破壊したのを目の当たりにしたんだろうな……ヘブンの表情は怒りや不満と言うより切実さに染まっていた。

「ところで。もうそろそろ戦闘が始まると思うが、円陣を組んだりはしないのか?」
「「は?」」

 ノウルーの発言に、私とカイルは驚愕する。

「一時的なものとは言え、俺達は仲間として背中を預け合うんだろ。信頼関係を築く為にも、円陣を組むべきじゃァねぇのか?」

 彼は至極真面目に話している様子だった。これどうすればいいの? とヘブンに視線を送ると、無言で顔を逸らされた。
 あ! こっちに丸投げしやがったな!? 貴方の部下でしょう!?

「……そこまで言うなら組むわよ。ほら皆円になって〜〜」

 もうなるようになれと。教師のように皆に呼び掛ける。
 戸惑いながらもちゃっかり私の両隣を陣取る従者二人。団結力が凄い。

「ほらアミレス。何か掛け声くれよ」
「え、私?」
「当たり前じゃん。お前がリーダーなんだから」
「うそん……」

 円陣を組むと、カイルからとんでもない事を丸投げされた。絶対そういうのはカイルの方が適任だと思うんだけどなぁ。
 だがカイルの言葉にも一理あるので、仕方無く掛け声を考える。こんなのただの一度もした事ないから、何を言えばいいのか全くもって分からないのだけど。