『あー、じゃあ俺達が動く時、ド派手にぶちかました方がいいか』
『ド派手って、具体的にはどうするつもりなんだよクソガキ』
『え? そりゃあもう……船沈めた時と同じぐらい思いっきり魔法ぶちかまそうかなって』
『…………つーかやっぱりお前等だったんだな、あん時船沈めたのは! マジで何なんだよお前等!!』

 鏡の向こうで、カイルとヘブンが楽しそうにぎゃあぎゃあ騒いでいる。

「その件だけど、別働隊にはとにかく思いっきり暴れて欲しいの。それこそ、私達三人でさえも為す術なく……って思われるぐらい思いっきり。だからルカの案には賛成よ。完全犯罪術式(コード・モリアーティ)だっけ? あれも、人が死なない程度ならぶちかましていいよ」

 初日につい張り切り過ぎて、私達三人の強さを周知のものにさせてしまったので、カイル達にはちょっと頑張ってもらわなくてはならなくなった。
 わざとじゃないのよ、わざとじゃ。
 その尻拭いをさせるようで少し申し訳無いのだが、私は躊躇いなくカイルにゴーサインを出した。

『よっしゃ任せろ、こんな事もあろうかと攻城戦専用の魔法作って来たからさ』

 何をどう生きてたらその可能性を想定するのか分からないけど、流石は天才ね。頼りになるわ。

『魔法を作る……?』
『前々から思ってたけど、アンタ、何者なんだよ?』

 ヘブンによって選抜されたスコーピオンの構成員、ラスイズとマノがカイルに詰め寄る。カイルは『どこにでもいる普通のオタクだよ』と適当にはぐらかしていた。

「ああそうだ、計画決行は抗議が始まった直後だけど……そっちは準備出来てる?」

 話を進めるべく、話題を変える。

『おう。魔法薬で髪色変えて、覆面も変装も完璧だぜ。今は城近くの宿の一室で待機中だ』
「ルティが取っておいた部屋に無事入れたのね」
『座標さえ分かればこっちのモンだからな。計画決行のタイミングは、抗議開始直後なら好きなタイミングでいいんだな?』
「そこは貴方の采配に任せるわ。別働隊の指揮官は貴方なんだから」

 淡々と作戦の最終確認をしてゆく。
 別働隊には城内の地図と兵の配置図を全て頭に入れてもらって、内乱発生より前に城に突入する手筈になっている。
 そしてその後、私達は必要悪(スケープゴート)となり、大事件を起こす。
 半年以上かけて準備して来たこの計画……絶対に成功させなくては。

『──そんじゃ、また後でな。そっちも手筈通りに頼む』
「勿論よ。また後でね」

 作戦会議が終わり、鏡が普通の鏡に戻る。
 ふぅ……と一息ついてから、私は立ち上がってイリオーデとアルベルトに言葉を投げかけた。

「イリオーデ、ルティ。悪人になる覚悟はいい?」

 この言葉に二人はその場で跪き、

「──勿論でございます。私は貴女様の剣です。どのような戦場でも、お供致します」
「──主君のお望みとあらば、俺は巨悪にだってなってみせます」

 強い意思の篭った声で肯定を口にした。
 相変わらず大袈裟だと思う反面、これでこそこの二人だと思えてしまう今日この頃。慣れって怖いな。
 ──この作戦会議から二時間弱。城門前にぞろぞろと領民達が集まり始めたと、偵察に行ったアルベルトから報告があった。
 ついに、私達の計画が始動する。


♢♢


「そんじゃ、そろそろやるかぁ」

 瞬間転移で宿から抜け出した別働隊の面々は、城門前に群がる民衆を見て計画を決行する。

「おいクソガキ、ここは予定していた侵入経路とは違う場所だが」
「いいんだよ、ここで。どうせ俺がいりゃどっからでも侵入出来るんだから」
「はぁ?」

 ヘブンの圧をのらりくらりと躱しつつ、カイルはサベイランスちゃんを起動した。

「さぁ見せてやるか、サベイランスちゃん。じゃんじゃん活躍しちゃおうぜ! 大戦兵器化(モード・ワルキューレ)、発動!!」

 ぽかんとするヘブン達を置いて、カイルは活き活きと宣言した。
 その瞬間、夥しい量の魔力がサベイランスちゃんに集約する。

《星間探索型魔導監視装置、限定起動。魔導変換開始。事前指定、目次参照完了。魔力属性の並行使用最大値を記録……演算処理の最適化、完了。形状変化、開始。大戦兵器化(モード・ワルキューレ)──発動》

 無機質な音声と共に、その魔導具は変形する。
 何重にも魔法陣を重ね、現在進行形で質量を増してゆくそれは、やがて全長三メートル程あるスナイパーライフルのような形状へと変化した。
 眼前で起きた目を疑うような出来事に、ヘブン達は開いた口が塞がらなかった。そんな彼等に、カイルによって更なる追い討ちがなされる。

「サベイランスちゃん、一定範囲の無機物だけ破壊して」
《承認。破壊対象、無機物に限定。生物には無効となる術式を再構成……完了》
「よしっ。ぶちかましてくれよ、サベイランスちゃん!」
《攻撃準備《カウントダウン》、開始。三、二、一……──魔力圧縮弾、発射》

 その銃口に、大中小と魔法陣が三つ。放たれた弾丸は、その魔法陣を通過する度に規模と威力を増幅させた。
 地に固定された大砲と見紛う巨大な狙撃銃は、カイルの膨大な魔力を最高効率で弾丸へと変化させた。
 これに用いられた魔力属性の数、およそ十五。彼の持つ魔力の大半を使用して、最も効率的に銃と弾丸を顕現させたのだ。
 しかしこれはただの銃と呼ぶにはあまりにも──、

「ビームは男の浪漫だよなぁ!」

 破壊力が異常だった。サベイランスちゃんから放たれた一撃は、尋常ではない量の魔力を消費したビーム砲だったのだ。いやはや、弾丸とは。
 カイルのめちゃくちゃな命令《オーダー》にも完璧に応えたその一撃は、当然のように城門と外壁を破壊し、更には城の一部に巨大な空白を作り上げた。
 しかし。この一撃で死に絶えた生物は一つとして無かった。この一撃は……本当に、無機物のみを破壊してみせたのだ。
 だが銃口付近の地面は抉れ、衝撃波で近くの建物の窓はことごとく割れた。
 あまりにも濃く強烈な魔力の塊が放たれた事により、付近にいた人達の大半が魔力酔いを起こした。
 ……この通り、人的被害がゼロという訳ではないが。