「決めたぞ、テメェは絶対に殺さねぇ。死ぬまで痛ぶって奴隷としてこき使ってやるッ」

 血の滲む脇腹を手で押さえながら、男は憤慨する。

「その前に貴方達が豚箱にぶち込まれるのが先ですわよ、犯罪者共!」

 お淑やかなお嬢様らしく叫びながら、剣を構え、私は自ら攻勢に転じた。
 脇腹を斬られた男狙い……に見せかけて、その横の魔導師らしき男の腹部に勢い良く剣を突き刺す。剣をすぐさま男の腹から抜いて、背後からの攻撃を躱す。

「チッ! ちょこまかと……!!」

 何度も私目がけて剣や斧が振り下ろされる。しかしそれらはエンヴィーさんの攻撃に比べて遅いので、目視してからでも避けられる程だった。……ただ相手の数が多くて大変で。
 昼間の男達は戦えもしない奴等だったから楽勝だったけど、この人達はかなり戦えるようだし。
 そんな事を考えながら距離を取り、相手がこちらに向かおうと足先を向けた所で、私は魔法を使う。

「水鉄砲《ウォーターガン》!」

 剣を一度鞘に収め、指先に魔力を集中させた上でそれを膨大な水と共に噴射する。
 事前詠唱を必要としない、水魔法の初歩中の初歩の技だ。
 本来はその名の通り水鉄砲としてしか使われないこの魔法だが、込める魔力に比例して水圧と水勢が増す。
 今私は、この水鉄砲《ウォーターガン》に本来の約二十倍程の魔力を込めた。……つまりこの何でもありのファンタジー世界において、超高圧水鉄砲は、

「水鉄砲だァ? ンなガキの使う魔法で一体何、が──」
「何が起き、て……ッ!?」

 木材ぐらいなら余裕で貫ける威力を発揮してしまうのだ! ……これには私も、初見時に驚きのあまり目が飛び出てしまいそうになった。
 一人の男のみぞおちの辺りを貫いて、水鉄砲はそのままその後ろの壁にまで穴を空けた。

「ひぃぃッ!? な、なんなんだよこのガキはァ!?」

 ボスとやらが顔面を蒼白とさせて叫ぶ。しかし、それに答える者はいなかった。皆、それ所では無いのである。
 やはりこの魔法に驚いているのだろう……これは簡単な木材でさえ貫ける超高圧水鉄砲だ、そんなものが人体を貫けない筈が無い。
 相手が鉄製の鎧でも装備していない限り、これは基本的に百発百中なのだ。……私がちゃんと当てればの話だけども。

「後二人……!」

 私の水鉄砲《ウォーターガン》を見て、予想外の事にあわをくう男に向かってもう一度突進し、剣を振る。
 男は私の攻撃に対応しきれずにあえなく腕を大きく負傷し、壁際まで逃げるように後ずさった。
 動きを封じようともう一度水鉄砲(ウォーターガン)を発動しようとした時。

「ふんぬぅッ!!」
「っ?!」

 最後の一人が思い切り斧を振り下ろしてきた。避ける事は叶わず、何とか振り向いて長剣《ロングソード》でそれを受け止めるも、そのあまりの重さと衝撃に私の手や腕が悲鳴を上げる。
 体を支える足も、上からかかるその圧力に尋常なく震えている。
 やっぱり、力勝負では叶わない……!
 駄目だ、このままじゃ、手も足も折れてこの斧で体を真っ二つにされてしまう。

「今だァッ!」

 後方からそんな声が聞こえてきた。先程の男が、何とか体を支えている私の足に、剣を刺してきたのだ。
 それにより完全にバランスが崩れて……。

「まず、い……」

 体勢が崩れ地面に倒れこもうとする私の視界に移ったものは、白銀の長剣と、大きな斧とそれを振るう大男、そして……熱い緋色の光だった──。