「なら、…そうだな、新月の日に、プラネタリウムにでも行くか」

「プラネタリウム?」

「新南山駅の近くの。月とか星とか、興味ない?」


オウム返しにしたら逆に聞き返されてしまって、返答に困って頭を掻いた。

何せ、今までの私には夜空を堪能する時間すら与えられていなかったのだから。

この間の十五夜の日だって、煌々と輝く満月を見ても何も感じる事がなかった。


興味があるかないかなんて、分からない。


でも、

「綺麗だと思うけど」

蓮弥さんの放った最後の一言に、心動かされたんだ。


「…蓮弥さんが、言うのなら」


自分の意見を口に出すことは、どうしても難しい。


世の中に存在するきれいもうつくしいもよく分からなくなってしまったけれど、

そう願う気持ちだけは、廃れた私の心にも辛うじて残っていた。



「…分かった」


私を見つめる彼の碧眼が、満足気に細められたのが分かる。


「じゃあ、その日の正午に新南山駅で」


さらりと告げた彼は、今度こそ正面に向き直った。

片足を窓枠にかけ、まるで椅子に座るかのように後ろ向きに腰掛ける。


待って、私は何を目印に貴方を探せばいいの?


「待っ、」


でも、口を開いた時には時既に遅し。

蓮弥さんは、華麗な動きで私の視界から姿を消してしまっていた。


「……」


一人残された私は考えを巡らせ、ある答えに辿り着いて思わず頬を弛ませた。


あの人の碧く光る色を探せば、すぐに見つけられると気付いたから。