泥棒さんだって、何かの目的があって私の家に忍び込んだはず。

…でも今は、そんな事は関係なかった。


「泣いてた時は抱き締めてくれましたし…私、自分の家の事を他人に話したのは初めてだったんです」


泥棒さんから、一瞬たりとも目を逸らさずに。


「だから…あの時、ずっと側に居てくれて、ありがとうございます」


彼との出会いを、終わらせたくなかった。

終わらせてはいけないと、私の第六感が声の限りに叫んでいたんだ。


だから、“ありがとう”なんです。

小さく笑いかけると、静かに私の言葉に耳を傾けていた彼は、遂に観念したかのように天を仰いだ。



「…ここよじ登るの、大変だったんだからな」


どこか安心したようなその瞳には、曇りの色はもう見られない。


ようやく声を発した泥棒さんは、ゆっくりと目元近くまでを覆っていたフードを外した。

瞬間、隠れていた直毛の黒髪が姿を見せた。

センター分けがされ、耳に掛かるか掛からないかの長さの前髪を無造作にかきあげる姿は、最早盗みを働いた者とは思えなくて。


彼は、そのまま流れるような手つきで闇色のマスクに手をかけた。

それを外せば現れるのは、高く整った鼻と薄い紅色の柔らかな唇。


漆黒の服に整った顔、宝石の如き美しさを持つ左目の碧。