泥棒さんの目は伏せられ、長いまつ毛は小刻みに揺れている。

私の部屋に入って来た時の堂々とした素振りは影を潜め、彼は、どこか落ち着かなげに両手を膝の上で組んだ。


「ずっと勘違いしてて、すみませんでした」


そんな彼をしっかりと視界に映しながら、私は静かに頭を垂れる。

だって冷静に考えれば、私が夢だ何だと言わなければ、泥棒さんは今日私の部屋に来なくても良かったんだ。

彼に、無駄な労力を使わせてしまった。


「…でも、来てくれて、ありがとうございます」


けれど、続く言葉を聞いた瞬間、泥棒さんが弾かれたように顔を上げた。


「は…?お前、何言ってんの」

「え?」

「元々、俺はこの家に盗みに入ったんだぞ?それなのに、何で“ありがとう”なんだよ」


泥棒さんの表情は何一つ読み取れないけれど、ただその碧眼が美しくて、この期に及んでも尚見とれてしまいそうになる。

でも、さすがに空気を読んだ私は目線を少し下げて床の辺りを見つめた。


泥棒さんの言っている事は正しいけれど、

私にとってみれば、これは“ありがとう”なんだ。


「けど…俺の方こそ悪かった。警察に突き出してくれても構わないし、何ならこれから自首、」


でも、私が何かを紡ぐよりも先に、泥棒さんはおもむろに立ち上がって窓枠に足を掛けた。