「なあ」

「あの」


そして、私達の小さな声が、重なり合った。

泥棒さんが私の方を顎でしゃくり、発言権を委ねてくる。


もう、今しかない。

直感でそう判断した私は、ぎゅっと椅子の背もたれを掴んだ。



「あの、これって、現実…なんですよね?」

「っ、」


まさか、私がいきなり話の本質をつくとは思ってもいなかったのだろう。

片足を組みかけていた泥棒さんの動きが、分かりやすく固まった。


ありがとうございます、泥棒さん。

その反応から、彼が本気で嘘をつき続けようとしていた事は明々白々。


実際にここに忍び込んで盗みを働いた彼にとっても、この出来事を夢という事にしておけば都合が良いはずなのだから。

泥棒さんの頭を渦巻いているであろう様々な考えが手に取るように理解出来る中、私は乾いた唇を舐めた。


「この間自覚したんですけど、私、夢をモノクロで見てるんです。…初めて貴方に会った時、寝ぼけてたのもあって夢だと思ってたんですけど、でも」


彼は、その碧眼の中に私を捉えたまま微動だにしない。



「泥棒さんの目が、その…綺麗な碧色だって、覚えてたから」

「……」


泥棒さんは、何も言わない。

でも、その見開かれた双眸は動揺に耐えきれずに揺れ、

最終的に、彼は私からふっと目を逸らした。



「…ジロジロ見んなよ」


そして、夜風に運ばれて聞こえてきた、どこか諦めたような小さな声は、私の立てた仮説が当たっている事を示唆していたんだ。