「…血、出てるかな」


両手と右半身の傷跡が心臓の鼓動と共に痛み、仕方なく上半身を起こした。

窓から注ぎ込む月の光が、弱り切った私をじっと見つめている。


数日前、父にあれ程言われた窓は確かに閉まっているけれど、鍵は開いたままだ。

その理由は、夜に父のことを思い出して辛くなった時にいつでも外の空気を吸えるように。


…こんな事でしか父に対抗できない私は、本当に弱い人間だと思う。

痛む膝を抱えた私は、顔を両腕の中に埋めた。


母はこの危機的状況を回避せずに愚痴ばかり言ってくるし、私は父が最終手段として弟に手を上げる事を恐れるあまり、誰にも助けを求められない。



ずっと、私が皆の代わりに犠牲になれば良いと思っていた。

その為なら、自分の全てを捨てても構わないとまで思った。



でも本当の本当は、

心も身体も痛くて痛くて、苦しかった。



「痛いよ…」


目頭がみるみるうちに熱くなり、温かい涙が腕を伝う。

心はこんなにも冷え切っていて父の魔の手からは決して逃れられないのに、涙だけは温かいなんてどういう皮肉だろう。



…私は、いつになったらこの地獄から抜け出せるのかな。


「…助けて、」


誰かに助けを求めるように、いや、自分が心の奥底にひた隠しにしてきた感情を確かめるように。

たった四文字の言葉を掠れる声で呟いた私は、小さく鼻を啜った。




蹲って泣き続ける少女の姿を、物言わぬ月が静かに照らし続けていた。