身体に刺さった全ての画鋲を抜いて処置が完了するまで、実に20分はかかっただろうか。


「…ありがとう」


弟の手を借り、傷だらけの身体に顔を歪めつつも何とか部屋着に身を通した私は、頬に微かな笑みを浮かべた。


「私、今日は床で寝る事にするよ。バスタオル敷いて、毛布代わりにもう一枚バスタオル掛けて寝ればシーツも汚れないし、お母さんも責められないはずだから」


結局、迅速な処置をしてくれた弟に向かって放った言葉は、高級住宅街に住む者とは到底思えないものだった。

事実、私の身体の表面を流れる血は止まっておらず、着替えたばかりのパジャマには既に赤いまだら模様が出来てしまっている。


「え?いやいや、そんなんじゃ背中痛めちゃうよ。こうなったのはあいつのせいだし、母さんが責められる事なんて何も」

「そうやってあいつの事を信用して、良かったって思った事はある?」


私の静かな声に、目を大きく見開いて抗議の姿勢を見せていた岳が黙り込んだ。


「…この家で起こった気にくわない事の責任は、全部お母さんが背負う事になるの。あの凄まじい声を聞く回数が減るんだったら、こんなのお茶の子さいさいだよ」



…お茶の子さいさいだなんて、もちろん嘘。

画鋲は背中には刺さらなかったものの、こうして足を地に付けているだけでも激痛が伴う。