この人が父ではないという事実だけが、ただただ私を安心させる。


泥棒を前にして、叫んで家族に助けを求める事も、警察に連絡をする事もせず。

私が強ばった表情を弛めて小さく息を零したのを見て、心外だったのか、

「…?」

私と目が合った彼は、怪訝そうに眉間に微かな皺を寄せた。


月の光に照らされて淡く光るその青は透き通っていて、まるで何でも見透かしてしまいそう。


「あの、貴方、だ…」


貴方、誰ですか。

その双眸から片時も目を離さないまま、唾を飲んで再度尋ねようとした時だった。




カチャリ……


玄関が開く音と共に、家全体が小さく揺れたのが確かに感じられたんだ。

それと時を同じくして、私の問いに答えようと泥棒が小さく息を吸ったのが分かる。


「っ……!」


でも、私は思わず口に片手を当て、右手で彼の動きを制した。


自分から聞いておいて答えさせないだなんて、これが無礼な行為だという事は百も承知している。

泥棒相手にこんな事をしたら何をされるか分かったものではないけれど、今の私はそんな事を考える余裕すらなくて。

眠くてトロンとしていた頭は瞬時に冴え渡り、ドッドッドッ…と、心臓が全力で血液を送り出す音が聞こえる。



廊下の電気が付き、ドアの下から漏れる白い光がベッドの近くまで届いた。