手を伸ばせば、瑠璃色の月

ドアのロックをかけてその場に蹲りたい衝動を必死に抑えた私は、頼れる友達に向かって笑ってみせる。

笑顔という名の仮面の内側にいる私は、果たしてどんな表情をしているのだろう。


「…なら良いわ。また明日ね、ごきげんよう」


多分、美陽も何か勘づいたんだと思う。

それでも、彼女は唇に弧を描いてこちらに手を振ってきた。

私が何か言わない限り、彼女もうかつに口出しが出来ないんだ。


ああ、帰りたくない。でも帰らないと。

脳内で、何人もの私が激しく議論しているのが聞こえる。


でも、それら全てを綺麗に無視した私は、

「うん。また明日ね!」

美陽に手を振り返し、ご丁寧にドアを開けてくれた坂井さんにお礼を言い、

魔物の待つ地獄の居城へと、歩みを進めていった。





ガチャリ、と震える手で玄関を開けた私の耳に飛び込んできたのは、リビングで父が怒鳴り散らかしている大声だった。


「お前は一日中何してたんだよ!部屋が汚いまま過ごしてたなんて、ふざけた女だ!」


あ、お母さんが怒られてる。

父の声はまるで暴風のような威力を伴っていて、私をいとも簡単に玄関先から動けなくさせてしまう。


一日に何度も耳に入るその汚らしい声に慣れる事など、生涯ないのだろう。