手を伸ばせば、瑠璃色の月




「わざわざ送って貰っちゃって、ごめん」

「何謝ってるのよ。三軒隣なんだから、どうって事ないわ」


その後、何処でスイッチが入ったのか、いきなり漫画の良さについて語り始めた朔を何とか振り切った私達が学校を出たのは、既に太陽が西の空に沈みかけている頃だった。

本当なら居残りをせずに帰るのが得策なのだけれど、父が帰ってくるのはどうせ夜だから、と、今日だけは自分に甘くしてしまった。

父の帰宅前に家に着いてさえいれば、この身に雷が落ちることはないのだから。



美陽の後に続いて校門の前に停められた黒塗りのセダンに乗り込むと、柑橘系の柔らかな香りが身体を包み込んだ。


「坂井、知世の家まで送ってあげて」

「かしこまりました、お嬢様」


運転席に座っている男性は私も何度か会ったことがある、美陽の専属運転手の坂井さんだ。

よろしくお願いします、の意味を込めて頭を下げれば、彼もバックミラー越しに微笑んでくれた。



坂井さんが優しくアクセルを踏み込み、何の揺れも感じさせないまま車が発進する。


毎度毎度思ってしまうけれど、彼の運転技術は冗談抜きで世界一ではないだろうか。

安全運転を具現化したらこうなるんだろうな、と、過ぎ去る景色を見るともなしに眺めながら考える。

そして、そんな専属運転手の運転の下で登校している美陽は本当に恵まれている。