手を伸ばせば、瑠璃色の月

…確かに、目を開けた時に“良く寝たな”と思ったけれど、まさか放課後まで眠ってしまっていたなんて。


「…勝手にしなさいよ」


カーテン越しに、生粋のお嬢様が溜め息をついたのが伝わった。



「で、知世は体調不良なのね?先生にはそう伝えておいたわよ」

「…あーいや、確かに頭痛そうだったんだけどさ、多分、」


そのうち、私が目を覚ましたとは露ほどにも思っていないであろう彼らの話の内容は、私の事へ切り替わった。


「何か、ストレスとかで引き起こされたんだと思うんだよね。ほら、悩み過ぎて頭痛くなるのってよくあるじゃん?」


いきなり朔が声を潜めたものの、それは静かな保健室では何の意味もなさない。


完璧に彼の台詞が聞こえてしまった私は、ぎくりと身体を硬直させた。


…あんなに笑顔で誤魔化したのに、次期院長の目は騙せなかった。

どうしようどうしよう、もっと上手く隠さないと。


そんな風に考えたけれど、

「あら、そんなものがあるの?私はストレスなんてないから経験が無いわね」

「…話す相手間違えたわ」

直後に聞こえてきた二人の会話があまりにも面白くて、思わず笑い出しそうになってしまった。


「でも、貴方が言うんだからそうかもしれないわね。知世に悩み事があるなんて信じ難いけれど」

「いや、まだ想像の範疇を超えてないから、鵜呑みにしてもらっちゃ困るよ」

「そうね」