手を伸ばせば、瑠璃色の月

「…いや、何にもないよ!」


結局、私が発したのは嘘で塗り固められた一言。

朔は体調関連の嘘ならすぐに見抜いてしまうけれど、それ以外なら私の勝ち。


「強いて言うなら、夏休みがもっと長引いて欲しかったって事くらい?」

「…ふふっ、そんなの悩みって言わないじゃーん」

強ばっていた表情を瞬時に緩めた私を暫くじっと見つめていた朔は、安心したように息を吐いた。


「でも、一応此処で寝といたら?ノートは後で美陽に見せて貰えば良いだけだし」


けれど、朔の根本的な意見は何も変わっていなかったようで。


「…分かった、そうするよ。朔は戻る?」


授業が始まったことを知らせるチャイムが鳴るのを聞きながら、私は諦めて頷いた。

あまりに拒否していては、今度こそ怪しがられてしまう。


私の問いを受けた彼は、

「戻るわけないじゃん。サボって漫画読むに決まってるって」

医学部進学を期待されている一人息子とは思えない台詞を言い放ち、声高に笑ってみせた。


「じゃあ、ありがたく寝てくるね。授業終わるくらいに起こして欲しい」

「はーい。おやすみー」


そうして、朔の言葉に甘えた私は、ピンク色のカーテンで仕切られた簡易的なベッドの上に横になり。

何かを考える間もなく、夢の中へと引き込まれていった。