彼の言う通り、私は悩んでばかりいる。


どうしたら父の性格を温和に出来るかな、とか、両親が喧嘩しない為にはどんな立ち回りをすれば良いのかな、とか。

大きな物音がするだけで耳を塞いでしまう弟の為に何が出来るかな、とか、…皆が苦しむくらいなら、私が全部の罰を背負ってあげたいな、とか。


一番に考えてしまうのは離婚という選択肢だけれど、親権を剥奪された父がそう易々と養育費を出してくれるとは思えない。

だから、私達は離婚が確定した瞬間から貯金を切り崩して生活することを余儀なくされるんだ。


母は大学卒業後にすぐ父と結婚したせいで社会を知らないから、今から働きに出る事は嫌がるに決まっている。

弟はアルバイトが出来る年齢ではないし、そう考えると、私が一人で家庭を支えなければならない。

…でもそんな事、外の世界を知らない私の力では出来るはずもなく。


社会からの目もあるだろうし、結局、私達は”父”という絶対的な存在に頼らないと生きていけない。

そして、これら全てが父の思惑通りのはず。



けれど、こんな事を朔に言うわけにはいかなかった。

だって、彼は私の家庭の暗い事情を何ひとつ知らないから。


人様に迷惑を掛ける事だけは絶対にしてはいけない。

それが、父と接していくうちに私が学んだ唯一の事だった。