「知世!」


朔の大声が、身体を稲妻のように走り抜けた。


何、今の何。

私のせいだ、また怒られるんだ。

びくん、と手が震えて、それ以上腕を伸ばすことが出来ない。


何だか、父に怒鳴られた時の心情と似たようなものを感じたせいで、今の状況を理解するのに少しだけ時間を要した。



「…ごめん、大声出しちゃった」


ゆっくりと後ろを振り返ると、そこに座ってこちらを見つめるのは鬼の形相をした父…ではなく、柔らかな微笑みを称えた朔で。


「あのさ、五時間目なんて休んだって構わないから。…ウチが言いたいのは、身体の不調じゃなくてさ」


先程空気が揺れる程の大声を出した朔の声は透き通っていて、最早口を開く事すら憚られる。

何も言えずにいる私に笑いかけた彼は、再び口を開いた。


「悩んでる事とか、ないかなーって思って。ほら、色々考えすぎると頭痛くなっちゃうじゃん?」

「…え、」


…どう、反応したら良いんだろう。

朔の栗色の瞳が、心なしか小刻みに揺れているようにも見受けられる。

彼がどういう心情でその言葉を発したのかも、なんて答えたら良いのかも分からず、私はまたもや動きを止めた。