その後、朝食を食べた私は今どきでは珍しくなったセーラー服に袖を通し、これまた巷では珍しい学ランを着た岳と共に家を出た。


私達の学校は電車で30分程の場所にあり、高校に入学した当初は父が出迎えの車を用意すると言ってくれたけれど、それは丁重に断った。

このまま、私達の中から徒歩という移動手段が消えてしまったら、本当に社会を知らない人間に育ってしまいそうだったから。



「そういえば、今日数学の小テストあるんだった」

「ちゃんと勉強した?」

「…んー、まあまあ」


高級住宅街内に設けられた広すぎる歩道を歩きながら、弟と笑いながら他愛もない話をしていると。


「やだー、パパと手繋ぎたいー!」

「だめ、パパはボクと一緒だもん!」


向かいの通りに面した一軒家の門扉から、幼稚園児と思われる二人の子供とその父親らしき人が姿を現した。

子供達はどうしても父親と手を繋ぎたいのか、半泣きで駄々をこねている。


「はいはい。二人共、父さんと片手ずつ繋ごう。ほら、もう恨みっこなしな」


そんな子供達の前でしゃがみ込み、柔和な笑顔を向けて話し掛ける男性の姿は、私達の父とは似て非なるもの。


…ああやって、父と手を繋いだ事なんてあったかな。

幼い子供達の姿が、あるはずのない私達の幼少期に重なって見えた。