手を伸ばせば、瑠璃色の月

「おはよ、姉ちゃん」


1階のリビングでは、既に4歳年下の弟ー玉森 岳(たまもり がく)ーが母の作った朝食を食べていた。


「おはよう、岳」


今年の春から中学生になった彼は最近声変わりが始まったばかりだけれど、それでも子供っぽさが抜けなくて可愛らしい。


寝癖が立っている彼の横をすり抜け、よっこらせ、と、こめかみに刺激を与えないようにゆっくりと椅子に座れば、

「おはよう、知世。昨日はゆっくり眠れた?」

早起きの母が、にこにこと笑いながらパンとスクランブルエッグの乗ったプレートを運んできた。


「うん、ぐっすり」


同じくにこにこと笑い返しながら、私の口から出るのは真っ赤な嘘。

何だか、この家で嘘をついたりわざとらしい演技をしすぎたせいでそろそろ女優になれそうな気がしてくる。


父とは別室で寝ている母は毎晩睡眠薬を飲んでいるから、昨夜の物音にも気付いていないはず。


たった一言で会話を終わらせた私は、黙々とパンを口に詰め込んだ。

美味しいと感じるだけ、まだマシなのかもしれない。



「ご馳走様ー。あ、姉ちゃん、卵落ちた」


暫くして、先に完食してしまった岳が、ふと素っ頓狂な声をあげて床に屈んだ。


「え?ごめん、気付かなかった」


瞬発的に謝ったものの、当の本人には聞こえていないらしく。