手を伸ばせば、瑠璃色の月

泥棒相手に“出て来て大丈夫”だなんて、自分でも変な事を言っていると思う。

まるで自分が悪事に加担しているようで何とも言えない気分になったけれど、彼を見ても特段怖いといった感情も沸き起こらなかった。


それはもしかしたら、私が常に死について考えてしまうような環境下で生活を送っているからかもしれない。

私の言葉を受けてベッドの下から這い出てきた男性を眺めながら、そんな事を考える。


長時間窮屈な体勢を強いられていたからか、ゆっくりと立ち上がってボキボキと身体中の関節を鳴らすその姿は、どうも根っからの悪人には見えなくて。


泥棒の手には、相変わらず私のネックレスが握られていた。


それ、どうするんだろう。

まだ数回しか身に付けていない真新しいそれは、売れば高値で買い取られるはず。


でも結局、後から身体を襲った目眩のせいで言葉が出なかった。


泥棒の安全は確保したくせに、自分の所持品の安全を確保する事はしない。


胸を押さえながら静かになってしまった私を見た彼は、

「…これ、貰うわ」

何の宣言なのか、私に向かって例のネックレスをゆらゆらと振ってみせた瞬間。


「あっ!」


ひらりと窓枠に飛び乗ったかと思うと、そのままひょいと外の世界へ飛び降りた。