手を伸ばせば、瑠璃色の月

蓮弥さんと一緒にスパゲッティを食べた時は、あんなにも美味しいと思えたのに。


ただ生きる為に食べ物を詰め込んでいるだけで、そこには何の感情も含まれていなくて。

こんなのは母にも申し訳ないし、…いっその事、普通が欲しかった。



「…で、知世はどうなんだ」

「っ、はい」


そんな事を悶々と考えていると、いきなり父に名を呼ばれた。

反射的に返事をしたけれど、今までの会話を聞いていないから何を答えたらいいかも分からない。


でも、ここで聞き返したら私が話を聞いていなかった事がばれて怒られる。

そうなった場合、母と弟が造り上げた偽物の平穏な世界にヒビが入ってしまう。

それだけは絶対に避けないといけない、でもどうやって?


こんなに沈黙を作るのも良くない、だからといって直感で何かを口にするのも間違っているわけで。

どうしよう、どうしよう。


“普通”の人なら何ともないような事で焦り始めた私は、盛り付けた時より半分も減ったご飯を見つめた。


…もしかしたら、潔く謝れば切り抜けられるかもしれない。

今日は父の機嫌も良さそうだし、きっと大丈夫。


父に話し掛けられた私がそう決断するまでに掛かった時間、僅か3秒。

でも私の中では、そのたった3秒が30秒と同等の威力を持ち合わせていたんだ。