手を伸ばせば、瑠璃色の月

変なところで頭の切れる父は私に対して手を上げない代わりに、精神を切り刻んでくる。

父はその行為をすることですっきりするのかもしれないけれど、私にとっては、毎日が地獄との闘いだ。


だって私は、父のストレス発散の為の人形なんかじゃない。

ちゃんとした感情を持った、一人の人間なのだから。


再度深く息を吐いた私は、右手を胸まで下げて窓の方を向いた。

父に指摘された窓は今も開け放されていて、その横にあるアクセサリーがキラキラと光っている。

その装飾品を、自室に差し込んでくる月光を綺麗と思えない私は、もう心が麻痺してしまったのだろうか。



そうして、焦点の合わない目で暫くその光景を眺めていた私は、

「あっ」

ベッドの下に隠したある人の存在を思い出し、がばりと上半身を起こした。


そうだ、父のせいで完全に忘れていたけれど、この部屋には泥棒が居るんだった。

起き上がった時に目眩がして、身体がぐらりと傾く。


「あの…」


胃から逆流してきた何かを飲み込んだ私は、傾いた身体を支える為に伸ばした手でベッドの端を掴み、そっと下を覗いた。


今まで頭上で壮絶な闘いが繰り広げられていたにも関わらず、一言も声を発する事がなかった泥棒の澄んだ左目と、真っ直ぐに視線がぶつかる。


「もう、出て来て、大丈夫です」