「い、いえ!こちらこそありがとうございました。で、では失礼します」
彼女はもう一度深く頭を下げると、2年の教室がある方へと歩き出す。
彼女も同じように1年前のことを覚えてくれていたことに胸が熱くなる。
それと同時に、もう話すことはないんだろうなと思うと寂しくもなる。
好意を向けられることが怖くなっていた俺は、いつしか自分の想いを伝えるのにも臆病になっていた。
だけど、どんどん遠ざかって行く彼女の背中を見つめながら思う。
このまま終わっていいのか?と。
また1年、彼女をただ目で追いかけるだけ?
来年、俺はもうこの学校にいないのに。
「み、宮崎さん!」
俺は気づくと彼女の名前を呼んでいた。
「えっ……」
振り向いた彼女はキョロキョロと周りを見回すと「……私ですか?」と自分のことを指差す。
「うん」
宮崎さん以外いないよ。
俺が自分から関わろうとする女の子なんて。
「これ、昼休みに一緒に食べない?」
そう言いながら掲げたのはさっき貰った袋。
「いいんですか……?」
「飲み物は自販機になっちゃうけどお礼に奢らせて」
その言葉に彼女は「それじゃあお礼の意味がなくなっちゃいますよ」と困ったような表情で笑ってみせた。



