「疲れがたまってるんじゃないか? ここ数日、様子がおかしいけど」
「ううん、そんなことないよ。ちょっとボーッとしてただけだから」


ほうきで割れたガラスを集めながら返した。


「作業中に美織がボーッとするなんて珍しいな」


辰雄の言う通りである。いったん作業に入ると、没頭してガラスしか見えなくなるのが美織だ。それこそ声を掛けられても耳に入らないほどに。


「夏の疲れも出てくる頃だし、今日は陽向と一緒に早く休むといい」
「うん、そうするね」
「私はギャラリーの戸締りをしてくるから」
「はーい」


今日は祖母の悦子が陽向を保育園に迎えに行っており、間もなく戻る時刻だ。
早いところ片づけを済ませようと散らばったガラスを掃き集めていると、背後から聞こえてきた靴音とともに声を掛けられた。


「失礼します」
「すみません、今日はもう――」