吹き竿を回しながら息を吹き込み、巻き取った高熱のガラスを膨らませる。断続的に吐き出した息でみるみるうちに形が変わっていく様子を注視しながら、美織の心は彼方へ飛んでいた。

(まさかあんな場所で会うなんて……)

史哉との再会は、三日経った今も美織を翻弄している。

およそ三年前、ホテルで史哉の衝撃的な発言を聞いたあと、美織は別れの言葉も告げずに彼の前から姿をくらませた。もちろん妊娠も打ち明けずに。
史哉に直接問いただす勇気はなかった。

彼と会って愛の言葉をかけられたら、真実から目を背けたくなるから。その愛が、今を楽しむためだけの偽りだとわかっていても。もしかしたら、本音はべつにあるのかもしれないと期待してしまうから。
儚い夢を抱きながら、いつか絶対に訪れる別れに怯えていたくはない。

あのあと美織は会社を辞め、数日のうちにアパートを引き払うという素早い行動に出た。彼との愛が幻影だと知ったショックがそれほど大きかったのだ。その事実から早く遠ざかりたい一心で沖縄へ飛んだ。

なによりも美織が悩んだのは、お腹に宿った命である。

シングルマザーがどれほど大変か、ネットのトピックを読んで美織にもある程度の想像はついた。