初めて訪れたというバンクーバーを美織に知ってもらうのが目的だったはずが、予想外に自分も楽しんでいた。
そもそも女性を喜ばせようとすること自体、自分でも思い出せないほど遠い昔だ。
美織と街を歩き、美しい景色を眺めた時間がなぜか惜しくなり、別れ際に明日の約束まで取りつけるなど、史哉にとっては前代未聞と言っていい。
「ありえない」
そう呟きながらスマートフォンを開き、イングリッシュベイのパブリックアートで撮影した美織の写真を眺める。
おどけたポーズをとった彼女の弾ける笑顔が眩しい。女性を美しいと感じるのも久しぶりだ。
ここ数年、心に余裕がなかったせいもあるだろう。今日は美織の笑顔に随分と癒された。
明日はどこへ連れていこうかと、コーヒーを飲みながら史哉が相好を崩したときだった。
手にしていたスマートフォンが着信を知らせて鳴り響く。相手は先ほど別れたばかりの美織だった。
なにかあったのだろうか。
応答をタップして耳にあてる。
「どうかしましたか?」



