スタッフに英語でかける声まで弾んだ。昨夜バーでやり取りをしたときの英語よりずっとスムーズなのも、気分が軽やかだからだろう。
いや、軽いどころの話ではない。完全に浮かれている。
『申し訳ありませんが、チェックアウトをお願いしてもよろしいでしょうか』
『……はい?』
『夏川様のご予約は昨夜一泊だけでした』
衝撃的な事態が勃発した。
美織の予約は一泊だけのため支払いをしてほしいと言う。部屋に置いてあった荷物はクラークで預かっているらしい。
それならなぜ朝の時点ですんなりカギを受け取とり、にこやかに『いってらっしゃいませ』と送り出したのか。
ほかのお客のチェックアウト業務で立て込み、たまたま行き違いがあったのかもしれないが、こんな時間になって予約されていないと言われても困る。
すぐにほかの部屋を手配してもらおうとしたが、あいにく空きはないらしい。近くのホテルを紹介してほしかったが、ほかのお客がグループで押し寄せ、支払いを済ませた美織は退散する以外になかった。
今回の旅行はパッケージツアーではなく個人旅行のため自分で飛行機やホテルを予約したが、なにかの手違いで一泊になってしまったのだろう。
「どうしよう……」
返された大きなスーツケースを手に、美織は途方に暮れた。



