チェックアウトをするためか、九時前にも関わらずロビーには多くの人がいる。忙しなく立ち回るスタッフに部屋のキーを預けて離れた。
待ち合わせ場所は、豪華絢爛なアレンジメントフラワーがあるエントランスの真ん中。そこに足を向けると――。
(あれ? もしかしてもう着いてる?)
そこに立つ男性に目が留まる。ネイビーのブロードシャツにライトグレーのテーパードパンツが爽やかな装いだ。
背後にある美しい花にも引けを取らない、麗しい姿にため息が漏れる。
視線泥棒と名づけたくなるほど、行き交う人たちの目を惹きつけている。
小走りに向かうと、彼が美織に気づいて軽く手を上げた。
「おはようございます。お待たせしてすみません」
彼の前で足をトンと揃え、軽く頭を下げる。
「まだ約束の時間にはなっていませんからご心配なく。気合を入れて早く出てきてしまったのは僕のほうなので」
今のは社交辞令のひとつ。深い意味はないとわかっているのに、彼の言葉に心は容易く乱される。



