「なーに、孫とひ孫の心配をできるくらい元気があり余っている証拠だ。美織は気にする必要はない。思うままに生きなさい」


七十歳を過ぎ、本当なら周りから労ってもらう立場のはず。それなのになによりも誰よりも美織と陽向のことを考えてくれるふたりには、いくら感謝してもしきれない。


「おじいちゃんもおばあちゃんもありがとう」


辰雄の言葉に勇気づけられ、麦茶を飲み干したときだった。テーブルに置いていたスマートフォンが着信音を工房内に響かせる。
きっと史哉だ。これから飛行機で発つという連絡に違いない。

浮かれ気分でスマートフォンを手にすると、予想した通りそれは彼からの着信だった。


「もしもし」


耳にあてて応答する。


『美織』


わずかにかすれた声が耳に届いた。