紳士的で穏やかな語り口調だからか、つい乗せられてバンクーバーへは今日到着したばかりなこと、明日以降どこを観光しようか候補がありすぎて悩んでいることなどを一方的に話していく。
バッグからガイドブックを取り出して、お勧めの場所を教えてもらおうとしたら……。
「僕でよかったらバンクーバーを案内しましょうか」
「えっ……」
唐突な彼の申し出に驚いて、上ずった声が出た。おまけに心音までトックンと弾む。
「いや、それこそナンパの常套句ですね。今のは忘れてください」
史哉が手をひらりと振って自嘲気味に笑う。先ほど外国人男性に声をかけられたとき同様、美織が困っているように見えたのかもしれない。
だとしたら違う。
「ぜひ案内していただけないでしょうか」
思わずカウンターに身を乗り出してお願いする。
ガイドブックと首っ引きで観光地を巡るより、慣れた彼に案内してもらうほうが断然いい。限られた時間もきっと有効に使えるだろう。



