「いらっしゃいませ」
女性が美織に負けないくらい低く頭を下げる。史哉の母親らしからぬ応対に戸惑っていると、悠然と降り立った史哉が美織の肩にそっと手を置いた。
「美織、こちらは木滝房江さん」
「木滝さん……」
ということは史哉の母親ではない。
「木滝房江と申します。瀬那家で家政婦をしております。房江と呼んでくださいね」
「は、はい」
「史哉さんがお小さいときから働いておりますので、この家のことでしたら史哉さんよりずっと把握しておりますから、なんでも聞いてください」
房江が人のいい笑みを浮かべる。福笑いのように柔和な顔に緊張が解れていく。
「房江さんは瀬那家を牛耳ってると言ってもいい」
「まぁ、そのようなことはございませんよ」
ふふふと上品に笑いながら、「旦那様も奥様もお待ちですよ」と続けた。
いよいよだ。



