あのときなにもかも打ち明けていれば、こんなに遠回りをせずに済んだだろう。彼女につらい思いをさせず、三人で満ち足りた日々を送っていたはずだ。

だが、後悔ばかりしていてもはじまらない。ここがスタート地点。取り戻した幸せをこれから大切にしていけばいい。


「なにも言わずに消えたりしてごめんなさい」
「僕のほうこそ悪かった」


美織は腕の中で首を横に振った。

史哉の言葉が美織を傷つけていたとは知らず、美織がいなくなった理由を探し求めたてきた。再び彼女に会うために、プロポーズするために、史哉の三年半があったと言ってもいい。

想いを遂げた喜びが感情を高ぶらせる。美織の髪に唇を押し当て、そっと彼女を解放した。


「おにいちゃん、ひなたのパパになった?」


陽向が足元から目を輝かせて史哉を見つめる。期待に揺れる澄んだ瞳が愛おしい。


「ああ。今からおにいちゃんは陽向くんのパパだ」


もう一度陽向を抱き上げ、美織とふたりで抱きしめる。


「やったー。よかったね、ママ」
「うん、ありがとう、陽向」


心から願った未来を手にし、史哉は紛れもなく世界一幸せな瞬間を迎えていた。