美織に直接ではなくとも、史哉はたしかにそう言っていた。
「……なんの話?」
眉根を寄せ、史哉が訝しげにする。全然身に覚えがないみたいに美織を見つめた。
「史哉さんがホテルの部屋の前で年配の男性と話しているのを……。ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんです」
「ホテルの部屋の前で? ……もしかして美織が消息を絶つ直前?」
そのときのことを思い出したのか、史哉は目を見開いた。
「あれを聞いていたのか……。でも違う。美織を会社のトラブルに巻き込まないためだったんだ。あのとき……」
切実な表情をして首を横に振り、彼が語ったのは美織が考えていたものとはまるで逆だった。側近まで欺かなければならないほど差し迫った問題だったのだと。
「それじゃ、私にまで嘘をついていたのはどうしてですか? トレーダーだなんて」



